箱庭の救世主

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 小さな部屋で、一人の少女がすすり泣いている。その様子を見て、誰もが惚れ惚れしたように息を吐いた。死に対する恐怖、その美しさに誰もが目を奪われている。  ポチっと一人の男がプロジェクターの電源を切ると、会議室と思われる大部屋に電気がついた。マイクの電源が入る音が聞こえ、「いかがでしたでしょうか」という男のゆったりとした声が続く。 「このように我々の実験の結果、人間は何度死を経験しても死に対する恐怖感を持ち続けるということを発見しました。痛みへの慣れはありますが、死という概念に対する慣れはどの人間にも見られません。少なからず恐怖感は誰にだってある、ということが先程の映像からも見て取れます」  日本心理研究所・研究員の真島(ましま)が堂々とした声で発言した。  人間が人間を支配する世界──地球。自分が自分の意志で動いていると信じている人間()と実はそのアクターたちを動かしている人間()に別れた世界が生まれてもう何千年と時が経っていた。  ディレクターとして生まれた人間は生まれつき自分が操るアクターたちのいる箱庭を与えられ、アクターはディレクターと箱庭の存在を知らずに死んでいく。勿論、死ぬタイミングもディレクターが選ぶことができる。真島のように夏葉を何度も死なせて、死んだときの記憶を持ちながら生き返らせ、何度も同じ夏を生きさせることも可能なのだ。  だってその箱庭を管理しているのはディレクターであるから、ディレクターはその箱庭のなのだ。
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