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彼者誰時9
もしこの人が僕の知り合いで、僕を元気付けようお面までしてこんな事をしてるんだとしたらその返しは意味が分からない。しかもその声はどこか面映ゆそうだった。
だけど陽咲はもういない。それだけはどれだけ彼女と声が似ていようとも、どれだけ彼女らしく振舞おうとも変わらない事実だ。
「一体誰なんですか? こんなことして。もし少しでも僕を元気付けようとしてくれてたとしても、これ以上は笑えません。むしろこんな事されて苛立ちさえ感じてます」
最終警告。そのつもりで僕はなるべく口調は抑えつつ言葉を口にした。でも実際は少しぐらい強いものになってたかもしれない。
そんな僕の言葉に目の前の彼女は(断言は出来ないけど恰好や見た目から女性だと思う。あと声も)僅かに顔を俯かせた。
「そうだよね……。急にこんな事言われても信じて貰えないよね。――でも本当に私なんだよ?」
上がった顔の狐面は依然と無表情を貫いていたが、その声は訴えかけるようだった。信じて欲しい。そう言っていた。
でも僕にとってそれは見え透いた質の悪い嘘。頑なに自分を陽咲だと言い張る彼女に我慢ならなかった。
「じゃあ、そのお面を取って見せて下さいよ!」
最早、怒鳴りつけるような口調になりながら僕は彼女に近づきそのお面を剥ぎ取ろうと手を伸ばした。
「ダメ!」
だが彼女はこれまでのどこか弱気な声とは一転し強く命令するような声を上げた。同時に一歩後ろへと下がり僕の方へ掌を広げた手が止まれと言いながら伸びる。
それに僕は思わず動きを止めた。
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