彼者誰時1

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彼者誰時1

「そう……。おい、蒼汰!」  大きく呼ばれた自分の名前。叩かれた肩。我に返った僕は反射的に声のした方を見遣る。  そこに立っていたのは同僚の黒瀬翔琉。見るからに活発そうでどこか子どもっぽさも感じる彼は一番仲の好い同僚だ。この会社で出会ったけど、気が付けば仲良くなってた。  そんな彼はどこか訝し気ながらも心配そうな表情を浮かべていた。 「ったく。大丈夫かよ?」 「何が?」 「上の空でぼけーっとしてたぞ」 「そうだった? でも大丈夫だって。ただちょっとぼーっとしちゃってただけだし」  だけど翔琉は愁眉を開かず依然と表情は変わらない。 「お前さぁ……。やっぱもうちょっと休んだ方がいいだろ」  それはさっきまでのどこか冗談めかし陽気さを含んだ声とは違い、真剣味を帯びていた。 「ありがとう。でも仕事で忙しい方が今はいいかな。その方が色々と考えなくて済むし」 「まぁ、そう言われたらそうかもな。多分、お前の気持ちは想像すら出来てないかもしれないけど、何かあったら遠慮せず言えよ。気分転換にも付き合うし、話しだって聞いてやるから」 「心強いよ。ありがとう」  まだ先程の残響を残しながらも微笑みを浮かべた翔琉はぽんっと少しだけ強く僕の肩を後ろから叩いた。 「んじゃ。早速、今日の仕事終わりに呑みになんてどーだ?」  そう言ってビールジョッキを呷るジェスチャーをする。 「んー。今日は止めとこうかな。行こうと思ってるとこあるから」 「そうか。じゃあまた今度な」 「そうだね。また誘ってよ」  それから僕も翔琉も仕事へと戻り黙々とすべき事を消化していった。
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