彼者誰時3

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彼者誰時3

 彼女の元を後にした僕はそのままお寺を後にしようとしたが、ふと今まで何度も通っているはずなのに気が付かなかった横道に目が留まった。ひっそりと伸びた石畳は小さな林の奥へと伸びていたる。  気になった僕は丁度、傍で掃除をしていた和尚さんに尋ねてみることにした。 「すみません。そこの道の先って何があるんですか?」 「あぁ。その先には随分と昔に住職が済んでいた家がありますよ」 「なるほど」  小さく頷きながら少しだけ興味が湧いた。 「そこって見てみても大丈夫ですか?」 「えぇ。ですが建物自体、古いですので近づいたり中へ入ったりするのはご遠慮ください」 「分かりました」  僕は最後に会釈をするとその道へと足を進めた。薄暗い中まるで別世界へと続くように真っすぐ伸びる人一人分の道。僕はどこか昔を思い出していた。家の近くから少し離れるだけで大冒険にでも出たような気持ちなっていた少年時代を。  だけどそんな気持ちもすぐにどこかへ飛んで消えてしまった。 「わぁ」  無意識の内に声を零してしまう程の景色がそこには広がっていたからだ。和尚さんの言っていた建物は右手に建っていたが、僕が真っすぐ見つめていたのは別のものだった。  世界から切り離されたように静寂に包み込まれたこの場所に、欄干越しで広がる街と山と海の景色。更に水平線に浸かる夕日が辺り一帯を色鮮やかに焼き、それはより一層見る者の心を奪う絶景へと姿を変えていた。  蜜に誘われる蝶のように一歩また一歩と視線はズラさず歩を進めていく。そして緩徐とした足取りで柵へと近づく頃には、僕の視界はその絶景で埋め尽くされていた。言葉は要らない、理由も要らない。僕はただ満足ゆくまでそれを眺め続けた。
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