彼者誰時4

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彼者誰時4

 でも段々と感動が落ち着きをみせ始めると、気が付いてしまった。最初の一目は嘘じゃない、かといってその後も嘘じゃない。それは確かに絶景で、僕は確かにその景色に目も心も奪われた。  でも実際、心のどこかでは陽咲のお墓参りで突き付けられるように感じたあの淋しさを少しでも忘れようと、僕はその目の前の絶景を見続けていたんだ。暗示をかけるようにただ眼前の景色で意識を埋め尽くした。  その所為か僕はふと我に返るとどこか申し訳ない気持ちになりながらもあの端にやっていた感情を思い出してしまった。 「この景色を陽咲と一緒に見れたら良かったな」  同時に隣で恍惚とするような声を漏らし夕焼け色に染まった横顔を思い浮かべる。あまりにも可愛くて、あまりにも見たくて、僕は思わず横を見た。  だけど当然ながらそこに彼女はいない。それが余計に虚しさを刺激した。  すると、ふとそのまま視線は和尚さんの言っていた建物へ。僕は古びこじんまりとしたその建物を見つめながら柵から離れた。  そこに建っていたのは、どれ程の年月を人に忘れられそこで過ごしてきたのか想像すらし難いような建物だった。 「いつの物が訊いとけばよかったなぁ」  若干の後悔とこの建物を目に出来た幸運の混じり合った気持ちを抱えながらそう呟いた。僕は別にそう言う歴史あるお城とかを見て回るのが好きなタイプじゃない。でも実際に目の前にしてそれも悪くないかもと思える程にはその建物は言葉に出来ない何かを感じさせてくれた。  それから夕焼け景色の後に人が皺を重ねるが如く古びた建物を気がすむまで堪能した僕は、段々と辺りが暗くなり始めてるのに気が付きそろそろ帰ることにした。
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