彼者誰時7

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彼者誰時7

 二日後。仕事を終えた僕はお墓参りを済ませると、あの場所へと向かった。たまたま見つけた道の先に広がっていた夕焼けの絶景。その日は和尚さんと会う事は出来なかったが、僕は水平線に沈もうとする夕日を眺めていた。  でも二度目だからか前回よりは落ち着きながらその魅力を確かめ浸ってた。陽咲の事は毎日のように思い出してる――と言うより気が付けば頭に想い出が浮かんでる。だけどお墓の前で手を合わせて目を閉じればより詳細に彼女の事を思い出すんだ。指の隙間をすり抜けていく髪の感触や例える事は出来ないけど安らぐ彼女の匂い、傍に居るだけで内側から溢れ出す想い。意識を集中させてる分、鮮明な想い出。  だからかこの景色を眺めているとより深く懐古の情に駆られ段々と感傷的になってゆくのは。瞳から体内へ入り込んだ淡い景色がじわり広がり僕を染めていく。肌をそっと撫でるそよ風にでさえ泪を流してしまいそうだ。 「陽咲と一緒に見たかったなぁ……」  気が付けばそう呟いていた。もう叶う事の無い小さな願い。  そんな自分の声を聞きながら空っぽの隣に淋しさを感じる。何の比喩表現も無くただ単純で深い淋しさ。でも同時に目の前に広がる景色は僕とは裏腹にどこまでも美しかった。  そしてそれは僕が時間も忘れ絶景を眺めていた時の事。段々と辺りは薄暗くなり始め、空は燃え上がるように赤く染まっていた。一日の中で僅かな時間だけ見られる赤い空は普段あまり気に留めない僕からすれば異様にも見えどこか不可思議な現象が起きているようにも思えた。 「蒼汰」  まるですぐ近くに彼女がいるのように、ハッキリと懐かしい声で名前を呼ばれた気がした。目の前の景色に感化されてきっと想い出の声がやけに現実的に聞こえたんだ。
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