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「これ、美味しい。全然生臭くない」
鯖缶と舞茸、それに玉ねぎを入れた味噌汁を食べて褒めてくれる。
「缶詰だから、簡単だしね」
「真凛ちゃん、本当に料理上手」
「料理サイトに出てるのを、作っただけだよ」
最近はたんぱく質を多めに摂るように、メニューを選んでいる。
食べ終わって、洗い物をしてるとスマホが鳴った。
「田中マネージャーから、写真が出来たって。
大学の帰りに、見に行く?」
「行こう」
夕方、青山の事務所まで出来上がった写真を見に来た。
「これはまだサンプルだ」
田中マネージャーが、大きめのファイルから取り出した。
10カットずつ、2パターンの写真と、私服で試し撮りした5枚の写真が机に並べられた。
「これ、好き」 あれを聖苑が見つけた。
黒のドレスを着て、テーブルに腰掛けている。
ウンザリした表情の生意気な女が写っていた。
「これはどうだ?」 田中氏が見せる。
ピンクと白のドレスを着た俺が、笑っている。
眼を溶けるほど細めて、前かがみに脚を内股にしたポーズがわざとらしい。
「こんなポーズしたっけ、必死過ぎて覚えてない」
会議室に社長が入って来た。
「ほう、中々の出来栄えじゃないか」
一つずつ見て回りながら、言った。
「これは、いいな」
白い方のドレス姿で、無表情に突っ立った俺がいた。
「アンドロイドみたいだ」
俺が答えた。
「この人間離れした、中性的な感じは魅力的だ」
事務所のスタッフが交代で見に来て、好みの写真を選んでいた。
人によって、好みが分散するのが判る。
「契約する気になったかな?」
社長が聞いている。
「契約書を預からせて貰えませんか?」
聖苑が答えた。
「いいだろう」
「父の会社の顧問弁護士と確認して、ご返事致します」
「わかった、返事は早い方がいい」
「急がせます」
「そうしてくれ」
田中マネージャーから、今日の写真は非公開だから渡せない。
契約すると肖像権を事務所が持つので、SNSに勝手に上がった画像は削除依頼が出来るなどの話が有った。
最後に、勝手に髪を切ったりしないように注意された。
個人アカウントはあるかと聞かれて一度も発信してない事を確認した上で、すぐに削除させられた。
聖苑が父親に連絡すると、東京支社のスタッフが書類を預かりに来た。
これで未来が、変わるかもしれない。
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