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沙保里 1
「沙保里が、博多のアイドルオーディションを受けるって言い出した」
母親から、電話があった。
東京なら目が届く。
博多は家から近いが、目が届かない。
アイドルがどんなに厳しいか、判ってないので呼び寄せる。
金曜日の研究生公演ゲネプロを、見せて貰える事になった。
当日、羽田まで山中女史の運転で迎えに行った。
久しぶりに会う妹は、ますます俺に似ている。
背中まである、真ん中分けのストレートヘアだけが俺とは違っていた。
「博多は絶対に受かる。その前に、ガーデンズで契約しよう」
聖苑が言い出した。
「辞めてくれ、入れたくない」
「ここなら目が届くし、田中氏もいる。博多より安全だ」
確かにいってることは正しい。
でも、あの競争に放り込みたくなかった。
「沙保里ちゃんの人生だ、最後は彼女が決める。
だったら、安全だけは確保してあげたい」
「本人次第だ。ただアイドルするなら、ガーデンズしかない」
俺は決めた。
沙保里は月奈のメイクで可愛くなって、solemnityのワンピースを着せられていた。
高い位置に結ばれたポニーテールが、よく似合っている。
「超、可愛い。真凛より少しだけ小柄だし、初心さが勝ってる。
声がまた、可愛いの」
聖苑が褒め上げる。
「ゲネプロ行ったら、絶対にみんなビックリするよ」
月奈は驚かせる気満々だった。
「シュガーと契約してくれ」
田中氏が言い出す。
俺は困惑した。
そんなに妹は、魅力があるのか?
俺の七光りを利用しようとしてるのか。
「田中さん、沙保里のどこがいいの?」
「真凛を純朴にした感じだ。
お前が持ってる強烈な個性が無い分、fanは育っていく過程を楽しめる」
「何も知らない分、伸びしろは物凄いよね」
聖苑が言った。
みんなで、渋谷エンデバーホールに到着した。
早速、春木プロデューサーに挨拶に行く。
顔を合わせた瞬間、俺に向かって大声を出した。
「誰だ! この娘は?」
「私の妹です」
「どこに隠していた?」
「隠してなんかいませんよ、田舎の高校生です」
「俺に任せてくれ、今すぐ契約しよう」
「オーディション、しないんですか?」
「あんなものはどうでもいい。真凛、お前は妹の才能を信じてないだろう。
俺がこの娘のポテンシャルを見せてやるよ」
凄い自信だ。
恐ろしい予感がした。
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