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「講義が終わったら、実家に帰るから真凛ちゃんもついてきて」 電車に新幹線、タクシーを乗り継いで、2時間。 タクシーが門の前に留まると、門が開いて玄関の前まで進んで止まった。 駐車場にドイツ車が数台並んでいる。 一番奥に、赤いスポーツカーが停まっていた。 タクシーを降りると、母親が出迎えてくれた。 彼女が俺を簡単に紹介してから、リビングルームに通される。 この部屋だけで、俺の実家1階全部の広さがあった。 聖苑と並んでソファに座っていると、男性二人と母親が入って来た。 「お父様、ただいま戻りました」 聖苑は、父親似だった。 入ってきた瞬間に父親だと判ったほど、面影が似ている。 「おかえり、元気にしているようだな」 威圧感十分な紳士が答えた。 「彼と一緒に住んでるの。 食事を全部作ってくれるから、三食きちんと食べてます」 そう言って、男性として紹介された。 三人共、女装姿の俺を見て、信じられない様子だ。 「普段は、出雲真凛という女の子として生活してるの。 彼がスカウトされたので、お父様には無理なお願いをしちゃった」 聖苑が話し終えると、俺は頭を下げた。 「報告は聞いていたが、まさかここまで美人とは思わなかった。 それでは調べた件について、判ったことを教えよう」 秘書らしき男性が、報告書を説明する。 シュガー・エンターテイメントはファッションモデルとタレントを20名くらい抱えている事務所で、佐藤プロという老舗の芸能プロダクションの傘下企業になる。 経営状態は悪くなく、取引銀行とも良好な関係だ。 警察関係のトラブルは見当たらず、事件事故は報告されてない。 「我社が広告モデルを発注すると仮定してみれば、検討に値する会社だ」 調査結果を、父親が結論付けた。 「それは安心だわ。ありがとう、お父様」 「心配なら話を聞く際に、うちの社員を同席させよう。 契約する時は、わが社の顧問弁護士事務所を通して契約してもいい」 俺の知らないところで、いろんな話が進んでいく。 彼女の父親も相当な力がありそうで、こっちも怖い。 「もっと帰ってこい。陽彩と沙綾が会いたがってるぞ」 「はい。これからは、月に一度は戻って来ます」 明日も大学の講義があるため、新幹線の駅まで送ってもらう。 1時間の乗車なのに、グリーン車のチケットを渡された。
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