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撮影は、翌週火曜日の午後に決まった。
聖苑が、交渉を一手に引き受けてくれてた。
大学の授業は絶対に休みたくないという、こっちの都合を飲ませている。
当日は、大学まで車で迎えに来てくれた。
もう逃げられない、追い込まれた気分になる。
「大丈夫、私がついてるから」
聖苑の言葉が頼みの綱だ。
一軒家の駐車スペースから、スタジオの中に入る。
田中氏が待っていて、出迎えてくれた。
「全ての準備は出来ている」
先週の事務所訪問の際、体中の採寸が有った。
壁際に立たされて、カメラで撮影もされていた。
「あれからスタッフが集められて、会議を重ねてきたんだ」
俺が思っている以上に、大げさな話になっていた。
椅子に座らされて、ヘアメイクが始まった。
エクステを外されて、自分の髪だけになる。
用意されたウィッグをつけて鏡の前に立つ、衣装をあててバランスを見ていた。
衣装のスタイリストと撮影スタッフも入って、6人から見られている。
もう逃げ出したくなるほど、恥ずかしい。
3種類つけて、肩より長いセミロングに決まった。
次にメイクを全部落として、すっぴんになった。
「いいね」
「この時点で可愛い」
スタッフたちの言葉が、気持ち悪い。
メイクが始まって、驚いた。
薄い、でも均一に塗られている。
力を入れると肌に赤みが出るので、極限までやさしい。
さすがにプロフェッショナル、聖苑がしてくれるメイクとは仕上がりの差は歴然だ。
「はい、出来ました」
鏡の中に、優しいピンクの顔があった。
裸になって、衣装を着せられる。
ピンクと白のツートンのワンピースで、胸もとのレースとウエストにでっかいリボン。
スカートの裾には、小さなリボンが並んでいる。
中に着た下着が、スカートを膨らませていた。
濃いピンクの小さなハットに、リボンと花がついている。
これをウィッグをつけてヘアメイクした髪に、ピンで留める。
胸のレースの中央に、大きめのブローチをつけて完成した。
「お人形みたい」聖苑が言った。
「いい出来だ」田中氏も褒めてくれる。
写真スタジオに入ると、スタッフが拍手で迎えてくれた。
ステージに上がると、脚が震えている。
隣に来た聖苑が言った。
「渡辺君も、コンビニのバイトを頑張ってる。
蒼海もこの一瞬だけ、全力でやって」
いきなり本名で呼ばれて、我に帰った。
「Bestを尽くすよ」
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