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私は週に一回だけ同じ時間、同じ曜日に、とある本屋を訪れる。
今まで私は一度も街に出てこなかった。それは危険だからだ。でも、一度だけ欲しいものがあって街に出てしまった。その時私は、人の姿に化けているのがバレてしまい、殺されかけた。でも、その時私を助けてくれた人がいた。後ろ姿だけだったが私は街で彼を見かけた時直ぐに彼だと気がついた。だから私は週に一回だけある人に会いにいく。本当は毎日でもその人に会いたい。でも、またバレたりしたら大変だから週に一回だけにしている。
今日がその人に会う日だ。私はこの本屋の窓を見てちゃんと化けられているかを確認し、しっかり身だしなみを整えた。
そして私はいつもの時間になると本屋に入った。
「おはよ、紺ちゃん。そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「お、おはようございます」
「今日はなんの本を探しに来たの?」
「え、えと、、ま、前、オススメしていただいた本が、その、気になったので」
「あ〜!あれね、ちょっとまってて。持ってくるから」
「は、はい!」
私はどうしても緊張して上手く話せない。でもこんなの、初めてここに来た頃に比べたらだいぶマシになった方だ。
「はい、これが前おすすめしてた、『化け狐の少女』っていう本」
「あ、ありがとうございます!」
本当は題名からして読みたくないなと思ってしまう。こういう題名の本は大抵、最後にその狐が殺されてしまうからだ。しかも、彼に少し内容を聞いたところ、この本に出てくる狐の少女は、私とにている部分が多い。
だからこそ、この本を読む時には、自分とこの狐を重ねて読んでしまいそうだと思った。もしこの狐が死にでもしたら私は、この本をいいと思っている彼との関係性が変わることはこの先ずっとないと思う。
でも、私は彼が好きだ。彼に振り向いてもらうために、たくさんの接点を作らないといけない。だから、この本を読んで感想を伝える。たとえ、自分自身を偽ってでも、彼のそばにいられるならそれでもいいと思ってしまうのだ。
「それじゃあ。また来週、感想聞かせてね」
「えっと」
『来週』この言葉を聞くだけで来週も「来ていいよ」そう言って貰えてる気分になってすごく嬉しくなる。
「え、もしかして来週は来ない?」
「い、行きます!」
「そっか〜良かった!俺、結構こうやって1週間に1回会うの楽しみにしてるんだよ」
「そうなんです…ね。私も、、です!」
「そっか、良かった!」
私は最高に嬉しかった。まさか、彼も会うのを楽しみしてくれているとは思わなかった。楽しみにしているのは私だけだと思っていた。私は顔がニヤけてしまっていないか心配した。でも、彼がとても優しい笑顔を浮かべていたから、そんなことを考えるのをやめ、彼の顔をじっと見つめた。
「?俺の顔になんかついてる?」
「い、いえ。」
「?……それじゃあ、また、来週会おうね」
「、はい!」
私にとってはこんな何気ない日常の全てが大切な宝物でした。
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