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「冗談じゃないですよ?」
一瞬修さんの表情が明るくなった気がした。
「変な話するけどさ、俺、昔狐を助けたことがあるんだ。」
私は心臓がバクバクしているのを感じた。
「その時の狐とさ紺ちゃんの雰囲気がすごく似てるんだ。やっぱりあのときの狐は紺ちゃんなの?」
彼の口からその話が出てくるなんて思ってなかった。ましてや彼は、あの時のことを忘れていると思っていた。
「……っ…そうです。私、あのとき…あなたに助けて貰ってから…ずっと、、ずっと、あなたが好きでした。」
「俺、君のことずっと覚えてたよ。あのとき、紺ちゃんに会えてよかった。俺も、あの時から紺ちゃんのことが忘れられなくて、大好きだった。」
私達は、しばらくの間抱き合って泣いていた。
「それじゃあ、私帰ります!」
「また明日」
「はい!」
また明日。この言葉がいつもの何倍も嬉しく思えた。
それから私たちは1週間いつも通りだけど少し違ったように思えるような日々をすごした。
そして私はいつものように店の前で髪を整え、店へ入ろうとドアノブをにぎろうとした。
「へ?わっ、、」
「あ、悪い」
どうやら同時に扉を開けようとしたらしく私は悠さんに抱きつくような体勢になっていた。
「す、すいまさん!」
「いや、俺も悪い」
……沈黙が凄い。どうしよう。何か言った方がいいんだろうか。
「なぁ、お前修と付き合ったんだよな」
「は、はい」
「はっきり言うぞ、あいつはやめとけ。死ぬぞ」
は・・?死ぬ?どういうことだろうか。
「どういうことですか?」
「それは、今は秘密だ」
「いくら修さんと仲が良い悠さんとは言え、悠さんにそんなこと…言われる筋合いないです。」
「悪い、、そうだよな」
悠さんは少し寂しげな表情をして、帰って行った。
急にどうしたんだろ。また、今度しっかり話を聞こう。
私は改めて店に入ることにした。
「こんにちわ〜修さッ」
店に入るといきなりあみの罠のようなものに釣り上げられた。
「これ、、どういうことですか?」
「ん〜?紺ちゃんには悪いんだけど、ちょっとのあいだそこにいて欲しいんだよね」
「なんで…?私のことずっと好きだったって言って」
「え?嘘に決まってるじゃん」
私はいきなりどん底に落とされたような気がした。
「なんで、そんなこと」
「俺、狼だから」
狼…?てことは私今から食べられるってこと?
「あ、その顔を食べられるってわかったのかな?恋愛をしてる狐って最高に美味しいんだ〜!」
「………っ」
「え、もしかして食べられたくない?でもずっと好きだった俺に食べられるなら嬉しいんじゃない?それに君に居場所なんてもうないでしょ?」
確かにその通りだった。私は彼に会うためにずっとここに来て、そのために生きてきた。でも、もういさその意味はなくなった。もう死んでもいいかもしれない。
「あっはは。まぁいいや、道具とか持ってくるから大人しく待っててね。」
私はもうどうすることも出来なかった。大人しく食べられることを待つしか私にはできない。ずっと好きだった人に捨てられる、こんなの耐えられるわけが無い。
「………っ……」
「おい、大丈夫か。今出してやる。」
「いいです。私には、もう居場所がないんです。生きてたって意味が無い。」
「そんなこと言ってんじゃねぇ。いいから逃げるぞ。意地でも逃げないっていうなら俺がお前の居場所になってやるから。来い」
私は驚いた。クールな感じで、あまり興味を持たなそうな悠さんがこんなに一生懸命になるなんて。
「あ、悠じゃん!悠さんも食べるー?」
「俺は要らねぇよ」
「そ、じゃあ俺独り占めー!」
「悠さんも、、知ってたんですか?」
「そうだよ!悠も俺と同じ狼だからね!」
どういうことだろう。なんで、狼の悠さんは私を助けるって言ってくれたの?
「いっ………た!何?悠」
「悪いが、修。俺は紺と同じ狐だ。」
「え?」
「は?冗談だよね。俺そういう冗談嫌いなんだけど」
「嘘じゃねぇ、よ!」
目の前の悠さんがいきなり狐に変身し、修さんに噛み付いた。すると修さんは狼になり同じように悠さんに噛み付いた。隙をついて、悠さんはあみを切り私を逃がしてくれた。
悠さんは私の仲間ってこと?でもどこの狐?この辺に狐はわたし以外に居ないはず。でも、微かに悠さんのその姿には見覚えがあった。
「逃げるぞ紺」
「は、はい」
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