隣の席の野上くん

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「ここ、分かった? 早坂」  授業が終わって先生が教室から出ていくと、みんな賑やかにくつろぎ始めた。  そんな中、野上くんは唸る声を出しながらあたしに聞いてくる。見れば、先程授業でやっていた教科書のページの問題をペンで差していた。 「……あ、あたしは、全然分かんないよ」  授業どころではなかったし、そもそも数学は苦手だ。 「まじか。ここだけわかんねーんだよなー」  ブツブツと言いながらあたしの教科書と睨めっこする野上くんの真剣な表情に、きゅんとしてしまう。  なんで悩んでいてもそんなにカッコいいのでしょうか?  胸に手を当てながら、あたしは幸せ過ぎると、ため息をつく。  次の日も、また次の日も、野上くんは教科書を忘れてくる。  その度に、ピッタリとくっ付いた机と触れそうなくらいに近い距離。毎回あたしの心臓は爆発寸前で、休み時間の度に息苦しくなった呼吸を整えるためにベランダへと出ては、深呼吸を繰り返す。  こんな毎日じゃ、あたしそのうち呼吸困難になって死んでしまう。  野上くんはその日の時間割の教科書どれか一つを、必ず忘れる。  そんなに忘れるなら、持ち帰らなきゃいいのに。そんなことを思い始めたある日の放課後。  日直で残っていたあたしは、隣の席の野上くんの机の中が気になってしまって、ジッと見つめていた。誰もいないことを確認しつつ、こっそり覗き込んでみる。
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