隣の席の野上くん

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 綺麗に整頓されている中身を取り出してみると、明日の時間割の教科書が全て収まっていた。  ん? 待って。今日、英語の教科書を忘れたって言って、一緒に見てたよね?  今日の英語の授業が始まる直前、いつもの様に「教科書忘れたんだった……」と、絶望した様な表情をする野上くんのことを思い出す。近い距離はなかなか慣れないけれど、教科書を貸すことにはどうにか慣れてきたあたしは、いつも通りに机の真ん中に教科書を開いたはずだ。  あれ?   手にしている教科書に視線を落とす。 「英語の教科書入ってんじゃんっ!」  思わず大きめの声が出てしまって、慌てて自分で口元を押さえて辺りを見回した。  大丈夫だ、誰も聞いていない。  シーンっとした教室内。窓の外から遠く野球部の掛け声が聞こえてくるだけだった。  しっかりとと名前の書かれた英語の教科書に、ツッコんでしまった。  そっと、野上くんの机の中を元通りに戻す。  どうして? と、頭の中に疑問が残ったけれど、日誌を書き終えて部活へと急いだ。
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