隣の席の野上くん

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 次の日、数学の時間になると、やっぱり野上くんは「数学の教科書を忘れた」とあたしに言ってくる。  昨日、机の中身は確認済み。数学の教科書もしっかりそこに入っているはずだ。あたしは、野上くんの机の中へと視線を向けた。  その瞬間、明らかに慌てる野上くんに、あたしは驚きつつ数学の教科書を机の真ん中へと開いた。  授業が始まる直前、先生が入ってくる少し前の騒ついた教室。野上くんはバツが悪そうな笑顔をして言った。 「わざとだよ……」  先生が入ってきて、号令がかかり、授業が始まる。野上くんは机の中から自分の数学の教科書を取り出して、何事もなかったかのように集中し始めてしまった。  あたしはというと、野上くんのひとことが耳から離れない。  わざと? って、どういうこと?  放課後、日直で残っていた野上くんに、あたしは思い切って聞いてみた。 「……あの、さ。さっきのって……」  小声のあたしに、野上くんはキョロキョロと近くにクラスメイトがいないのを確認してから、耳を赤くしてこちらを向いた。 「……わざと忘れたフリ、してたんだ。早坂と教科書共有したくて……ごめん、嫌だったよな」  謝った野上くんは日誌にペンを走らせている。 「い、嫌じゃ……ない……よ?」  むしろ嬉しい……って、それってもしかして。  お互いに同じタイミングで顔を上げたから、目がしっかり合ってしまう。  夕焼けが差し込む教室、野上くんの頬がより赤く染まっている気がした。 「今日……部活終わったら、一緒に帰らない?」 「……うん」  きっと、あたしの頬もおんなじかもしれない。
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