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君からの手紙
いつもの帰り道。君とゆっくり帰るふりをする。
「今日、体育のマラソン辛かったんだ」
「友達と喧嘩したんだ」
他愛も心もない薄っぺらな嘘は雨音に消えた。
どうして君がいなくなったのかも分からないまま、曇天の日にさす傘に当たる軽快なリズムに押しつぶされそうになっていた。
今聞きたいのはこんな曲じゃない。希死念慮と後悔の懺悔だ。苦しみを同じベクトルで語ってくれ。哀しみを私に突きつけて刺殺してくれ。そう願っていた。
ビニール傘にまとわりつく丸い水達が俺を睨む。
なぜ君をとめなかったと。なぜ君を見捨てたのだと。君をなぜ抱きしめなかったのだと。
視界に入る刃に魅せられ、いつの間に瞳から雨が落ちた。止血剤を求める。口から吐き出せない代わりに、瞳から溢れ零れるのは分かってる。
が、俺の体から外へ流れる透明な血はもう、底を尽きたはずなのだ。生成される供給は足りない。
君から一通の手紙が届いたのだ。
『ごめんね。大好き』
失恋と同じ言葉なのにも関わらず、10単語の意味は物語の終わりを告げていた。君の机に置かれた白い花瓶と白いドレスを身に纏う花。死を誘うとされたその花は、緩やかな時間を静止した。
今まであんなに話していたのに。あんなに話したのに。話せたのに。話したかったのに。
花に怒鳴っても君の耳には届かなかった。屋上の端に綺麗に置かれた上履きは、誰かからの苦しみを乗せて垂れおちた体液で湿り、廃れた色をする。そこから出たくすんだ色水は、過去を包み、辺りに散乱していた。パズルのピースが外れ放たれた。
赤い花弁を振り撒いて黒い泥で身を削る。
咲き誇ったその体は、最期の勇姿を魅せつけた。
俺に抱くことすら許さず消えた焔の残り香が、静かに俺を包み込んだ。
感じ取れるのは俺の吐く意味の無い嘆願と、目を眩ませるほどの藍色だ。
抱けるものは、錆びて朽ち落ちた感情の欠片だけだった。
君がいるように話しかける。
「手紙のお返事まだかけてないんだ」
学生鞄に忍び込ませた便箋に君の名前を書いただけで、未だに進まない。
今日も君が落ちる。明日も君が落ちるだろう。俺の時間は君が羽ばたく日で繰り返す。
進むことを求めているのだろう。きっと君は。
これを治す薬はまだ俺の元には届かない。
追うことすら許さない心が、今、初めて寂しいと綴った。少しずつ君と関われば世界は変わる。
そう願って、今、足を進ませた。
狙ったように神の雫が乾き、蒼き衣を身に纏う。
かかった栄光の架け橋を今日は少し恨むとする。
君が渡らなければ良かったのにと。
少しだけ。
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