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君が、好き。
いつもと同じ帰り道、いつもと同じ夕暮れの刻。隣にはいつもと同じオレンジに染まる君の笑顔。
少しでも長く一緒にいたくて、駅までの道をわざとゆっくり歩く俺に合わせて、君も縁石の上をおぼつかない足取りでゆっくりと進む。
縁石の高さ分いつもより近い君の顔に、早鐘を打つ胸を気取られないよう、素っ気ない返事をしてしまう俺の横で、なぜか嬉しそうに君は笑う。
君が、好き。
その一言が伝えられない俺は、今日も空に響くチャイムをサヨナラの合図に「また明日」と別れを告げる。
「また明日」そう言って手を振り背を向ける君の横顔が、沈む夕日を受けて少し淋しげな表情に見えたのは、俺の願望だったのだろうか。
明日になればまた会えるのに、変わらず隣に君はいるのに、せめてチャイムが鳴り終わるまでは、と君を見送る。
胸を締めつけるようなこの切ない痛みが、甘さだけではない恋という感情なのだと、君が俺に教えてくれた。
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