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「君は、僕の理想に反する行動をとったんだよ」
「え?」
「君はもう、僕の唯一の人では無くなってしまったんだ」
「な、何……言ってるの……?」
一体なにを言い出したのか。
全く理解できない言葉に私の頭が混乱していく。
しかし一宮くんの方は、当然の主張だとでも言うように熱弁し始めた。
「僕はね、見ているだけで良かったんだ。今まで君を、そっと見ているだけで良かった。ずっとそうしてきたし、これからもそうするつもりでいたんだ」
彼が私から視線を逸らし、何かに想いを馳せるように遠くを見つめる。
「君は他の奴らとは違って、周りの男に媚びたりチャラチャラした行動もしない。君は、誰よりも澄んだ透明感のある人だった。だから僕は、安心して、ただそっと君を見つめることが出来たんだ。それなのに……」
そこで言葉を区切り、彼がまた私へと視線を戻す。
「あの実習生を見た途端……、君はっ! 君は、その他大勢の奴らと同じになった!」
彼が、無理やり作ったような引き攣った笑顔を向けてこちらへ近づいてくる。
「でも君がね。反省して心を入れ替えるなら、それで構わないと思ってるんだよ。奥井さん、僕はね。一度の間違いくらい許せる男なんだ。だから反省して、心を元に戻して、君はどこまでも透明なまま、誰にも想いを寄せたりなんかしちゃいけない。そんな君を、僕は安心して見つめていたいんだよ」
ーーなに、言ってるの?
自分の言葉の異常さに全く気づいていない彼の様子に、私は恐怖を覚えて後退りした。
「さっきの君の態度も、あれは本当の君じゃない。だから僕が止めてあげたんだよ。あの実習生の前でも、元の君でいられるように、ちゃんと、反省しなきゃだめだ!」
ーーもう、聞きたくないっ。
これ以上、彼の言葉など聞きたくなかった。
「私は、一宮くんが思ってるような人じゃないよ。それに……それに……」
私は夢中で叫んでいた。
「この感情は、反省しなきゃいけない事なんかじゃない!」
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