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1話:黒天使との出会い
「という訳で、奥井澪さん。君は五秒前に死んだので、天界に関するパンフレット一式を進呈します」
という訳でと言われても……どういう訳なのか分からないまま、私は目の前の長身な青年を見つめた。
艶のある黒髪でストレートの前髪が、彼の動きに合わせて額の上をサラサラと揺れている。爽やかなイケメンさんだけれど、黒いシャツとパンツ。その上に黒のロングコートを羽織った全身黒で統一された姿が少しの威圧感を醸し出していた。
それに、先程から発言が何かおかしい。
「天界のパンフレットは、簡単に目を通してもらったら大丈夫なはずだから……。あ。それと、これが俺の身分証です」
まるで死神のような彼が、『天使協会 悪魔討伐本部 副隊長・ヒスイ』と書かれた身分証をこちらに示してくる。
ーー絶対に危ない人だ。
そう思った私は彼から目を逸らし、逃げ出すタイミングを伺う。けれど周囲へ目を向けた瞬間、辺り一体の景色に私は驚愕した。
「嘘…………何これ!」
今まで彼の存在ばかりに気を取られ、全く気づいていなかった。
ここは、窓のない白い壁に囲まれた無機質な部屋で家具と呼べる物など何もない。部屋というより、白い箱と表現した方がしっくりくるだろうか。
壁以外で唯一、彼の背中越しに見える少しだけ空いた扉。その向こうに、部屋と同じ真っ白な橋が見えた。橋の向こう側が確認できない程の長い長い橋だった。
そして、ヒスイと名乗った彼以外には誰もいない。
明らかな異常事態に恐怖を感じるけれど、彼は平気な顔をしてしゃべり続けている。
「まぁ。本来お迎え業務は『心残り清算本部』の仕事なんだけど、全員出払ってて仕方なく『悪魔討伐本部』の俺が…………って、えぇぇ?!」
話の途中に突然大きな声を出され、私の体がビクリッと震えた。
彼がイヤホンマイクのような物を付けており、それに向かって大きな声を出している。
「ちょ、ちょっと隊長! まだ死んでない? 仮死状態って、今更そんなことを言われても、何度も確認しましたよね? もう、身分証を見せましたよ!」
何か情報の行き違いでもあったのか、彼の声がとても焦っている。
「どうするんですか。身分証を見た意識体は、下界に戻っても記憶は消えませんよ!」
会話の中味は相変わらず何を話しているのかサッパリ分からなかったけれど、逃げ出すなら今しかないと思い、私はそっと彼の横をすり抜け扉へ向かって走り出した。
ーー長い橋だけど、あの先に何かあるのかもしれない。
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