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「当時はね。天使協会内をチェックする監査部隊も大混乱していて、肝心の書類審査がザルだったんだ。だからちょこっとだけね、こっそーりと書き換えさせてもらったよ。親友の転生場所を」
どちらかと言えば、罪を犯したのは親友じゃなくて私の方だね。そう付け足し、本部長がお茶目にウインクをする。
「何、やってるんですか……」
もう、笑うしかない。
「勿論反省しているよ。二度としないと心に誓った。だけど……君のような真っ直ぐな志を目にするとね。罰すべき罪とは何か、また疑問が心に湧いてくる」
フッと、本部長が柔らかな笑みを浮かべる。
「それに、君の同期たちが泣きながら私の所に来たよ。君のために何かできる事はないかと、必死に相談を受けてね。本当はみんな君と話がしたかったと思う。でも謹慎中の君の元へ大人数でやってくるのは得策じゃない。天界のルール上、あくまで建前は私も君の同期達も、君に失望しているというスタンスをとらないといけないからね」
俺の脳裏に同期達の顔が浮かんでくる。やたらと張り合ってくるあの同期も、なんだかんだ言っていいライバルだった。
「今の監査部隊はきっちりしているから、あの頃と同じでは通らない。けれど今はね、私もそこそこ偉くなった。根回しという大人の暗躍ができる立場になり、監査部隊にも偉くなった同じ考えを持つ同期がいる。だからなんとかなるよ、転生場所については。ただ……」
そこでいったん言葉を区切り、一呼吸置いてから、本部長が俺の目を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。
「それでも記憶だけは残せない。これは天界の絶対的ルールだ! だけど送り届ける。彼女と出会える状況と場所に。だから後は君次第だ。記憶なんか無くても、愛した人に、二度目の恋をしておいで」
本部長の言葉で、俺の目頭が熱くなっていく。
「有り難うございますっ! 本部長っ……ありがっ……ござい、ます」
涙が溢れ、うまく言葉を紡げない。
俺は勢いよく腰を折って頭を下げた。
「今まで、お世話になりました」
ーーこの記憶を失っても、どうか、この感謝の気持ちと澪への想いを、鼓動が覚えていますように……。
明日、天の月が満ちる。
俺が下界へ落ちる日だった。
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