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「面白い顔で寝てたから、写真撮ったよ。見る?」
「え?」
顔を跳ね上げた彼女の目が、途端に泣き出しそうに潤んでいく。
「や、嘘嘘! ごめん、嘘だよ!」
今度は俺が焦った。
教育実習中につまらない嘘で生徒を泣かすなど、あってはならない事だ。
「ごめん、本当に嘘だから!」
「嘘?」
「うん。可愛い顔だったし、写真なんか撮ってないよ」
スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、潔白の証明になればと画像フォルダを見せる。しかし彼女は先程からまた頬を赤くして、機械が一時停止するように固まっていた。
ーーん? 俺、また変なこと言ったか?
自身の言葉を振り返る。
『可愛い顔だったし』
もしかするとこれに照れているのだろうか。反応があまりに純粋過ぎて……。
ーーこっちまで照れる!
赤面が伝染してしまいそうになり、俺は焦って日誌を指差した。
「それ、日誌の提出がまだだったから、これを取りに来たんだ」
「あ……。そうだ、日誌!」
その言葉に彼女もようやくその存在を思い出したようだ。
「ごめんなさい。これを書いてて眠っちゃったみたいで……。提出、遅くなりました」
そう言って、申し訳なさそうに日誌を差し出してくる。
「いえいえ、確かに受け取りました。岡田先生に提出しておくよ」
俺が笑顔を見せると、彼女もようやく自然な笑顔を見せてくれた。
目を細めて笑う彼女の周りを、ふわりと柔らかな空気が包んだような気がする。
ーーこんな風に、笑うんだな。
胸の奥で鼓動が跳ねた。
ーーそうだ。この顔が見たかったんだ。楽しそうに、無邪気に、俺の隣で嬉しそうに笑う彼女が愛しくて……。
そこまで考えて、また自分の思考に思い切り戸惑った。
ーー隣で、笑う? 初めて会ったんだ。
どれだけ記憶を辿っても、名前を聞いても、出会った覚えはない。時折間違った思考に引っ張られるのは、やはり教育実習で相当緊張して疲れが溜まっているからだろうか。
その時、俺の思考と二人の時間を切り裂くように、激しい音を立て教室のドアが開いた。
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