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17話:助けて
<side:澪>
部活で課題曲を歌いながらも、私は全く集中する事ができずにいた。先程の一宮くんの態度が頭から離れなかったからだ。
一宮くんとは同じクラスで同じ部活であっても、今までほとんど話をした事が無かった。
人見知りな私は誰にでも話を振れるタイプでは無いし、一宮くんの方も周囲と積極的にコミュニケーションをとるタイプではなかったように思う。いつも淡々としていて、どちらかと言えば声に感情がこもっていない。そんな印象を受ける男子だった。
ーーなのに。
『奥井さん、行くよ!』
明らかに、いつもと声音が違った。
そこには怒りと、何か大きな落胆のような感情が、一際強く込められていたように思う。
ーー部活に遅れちゃったから? みんなを待たせたから?
勿論それは私が悪い。
謝罪すべき事だ。
けれど彼は、そこまで部活に熱心なタイプでは無かったはずだ。なぜ合唱部に入っているのか不思議なくらい、みんなで歌をうたう事を楽しんでいるようには見えなかったし、コンクールに熱意を持って挑んでいるようにも見えなかった。
だからと言って、自分の遅刻が正当化される訳ではない。
ーーまずは、ちゃんと謝ってみよう。それから、様子が変だった事を聞いてみよう。
私は練習後に、一宮くんに自分から話し掛けてみようと決めたのだった。
*
「い、一宮くん! あの……。コンクールの前に、部活遅れちゃってごめんね」
私は勇気を出して彼に声を掛けた。
いつも一緒に下校している香織先輩と舞衣ちゃんには、待たせるのが申し訳ないような気がして先に帰ってもらう事にしたのだ。
「あぁ。それは些細な事だから、気にしなくていいよ」
その返事を聞き、先程の態度の原因が練習に遅れた事ではないのだとはっきりした。
やっぱりあの態度には他に理由があるという事になる。私が考え込んでいると、彼が言葉を続けた。
「それよりも君は、もっと反省しなくちゃいけない事があるだろ?」
「え? もっと、反省すること……?」
戸惑いながら聞き返す私の前で、一宮くんが大きな溜息を吐いてこちらを見る。
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