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お風呂
「ちょっ、ちょっと待って……! このまま入りたいです! 入らせてください」
「ダメだ。お風呂入るのに、どうしてバスタオルがいるんだよ。邪魔なだけだろ」
バスタオルで体を隠しながら身を捩るが、稀一は譲ってくれない。かれこれ十分ほど、この攻防を続けていて――そろそろ根負けしそうになった詩音は困り顔で彼を見た。
「でも……」
「でも、じゃない。いつもはもっと素直に入るのにどうしたんだ? ほら、バスタオルを離せ」
稀一はそう言いながら詩音の胸をなぞり、太ももに硬いものを押しつけてきた。
(だ、だって、いつもはこんなことしないじゃない……!)
先ほどの会話が原因なのだろうが、お風呂に入る時のいつもとは違う彼の雰囲気が、余計に詩音の羞恥心を誘う。
取られまいとバスタオルを押さえてはいるが、稀一に胸を揉まれると負けてしまいそうだ。
「このままじゃ詩音の期待どおりにならないけどいいのか?」
「ううっ、そんなの別にいいですっ、ん……んぅ!」
首を横に振った途端、顎を掴まれ唇を奪われる。思わず舌を引っ込めてしまうと、彼が深く舌を口内に差し込み、詩音の舌を絡めとった。
バスルームの中に立ち込める熱気のせいなのか、稀一のキスのせいなのか――クラクラしてくる。力が入らない。
それを分かっているのか、すかさずバスタオルを奪い取られてしまった。
「あ!」
「恥ずかしいのが好きなんだろう?」
「ち、違いま……やっ! ふぁっ、ん」
尖らせた舌先を耳の中に差し込まれ、囁かれる。心外なことを言われて否定したいのに、彼に与えられる刺激のせいで上手に言葉を紡げない。詩音がぞくぞくした感覚に背中をわななかせると、稀一がバスタオルをバスルームの外に放り出して扉を閉めてしまった。
その音がバスルーム内に妙に響いて、体温がぶわっと上がる。
「可愛い。詩音の嫌は好きだもな。口ではやめてと言いながら、体はやめないでと言っている」
「~~~っ!」
「違うなんて言わせないぞ。それに、俺に抱かれることを望んだのは詩音だろ」
真っ赤に染まった顔で口をぱくぱくさせていると稀一がそう言って笑った。
確かにそうだ。ずっと稀一に抱かれたかった。だからこの状況に戸惑いはあれど嫌ではない――嬉しいのだ。
図星を突かれて何も言えなくなり、せめてもの抵抗で彼を睨む。
(嬉しくても恥ずかしいものは恥ずかしいんだもの。稀一さんはそれが楽しそうだけれど……)
あの告白から毎晩交わっているが、慣れるどころか稀一の色気とSっ気は詩音を翻弄する。それを悦んでいる自分と戸惑っている自分がいて、どうしたらいいか分からないのだ。
涙目で彼を睨んでいると、首筋を甘く噛まれた。その刺激に体が大きく跳ねたのと同時に、両方の胸の先端をきゅっと摘まれてしまう。
「ああっ!」
いつのまにボディソープをつけたのか、彼の手がぬるぬるしていた。その滑りのいい手でくりくりと捏ね回されると気持ち良すぎて、抵抗なんてできない。
彼にしがみついて甘い声を上げてしまった。
「ふぁ、ん……それ、やだっ」
「やだじゃないだろ。詩音の体、びくびくと跳ねて、とても気持ちよさそうだ」
稀一は詩音の首筋を舐めながら、ぬるぬると胸を揉み、時に先端を捏ねる。洗っているのとは違う彼の手の動きが官能を呼び起こして、詩音は彼の手を掴みながら首を横に振った。
(これダメ。足に力入らなくなる……)
「おっと……。大丈夫か?」
「は、はい……ごめんなさい」
立っていられなくて崩れ落ちそうになった詩音を支えて、バスチェアに座らせてくれる。稀一は床に膝をついて、荒い呼吸を繰り返している詩音の背中をさすってくれた。
「稀一さん……」
詩音が抱きつこうとしたその時、彼が体を屈め詩音の脚の間に顔を近づけてくる。
(え?)
稀一のしようとしていることを理解した時にはすでに遅く――彼は逃げようとした詩音を押さえて、あそこに口をつけてきた。
「きゃあっ! な、何? あっ、ああっ!」
稀一は詩音の問いかけに何も答えてくれずに舌で花弁を割り開き、しとどにあふれる愛液を舐めとった。
そして、ふるふると震えている花芽を見つけると、ちゅっと吸いつく。
「ひゃんっ!」
あまりにも強い刺激に腰が大きく跳ねる。彼はガクガクと震える詩音の太ももを押さえながら、唾液をたっぷり纏わせた舌で花芽を舐った。
「やぁ……はぅ、あ……き、きいち、さっ」
前屈みになって彼の頭にしがみつく。バスルームに響く自分の淫らな声と水音を恥ずかしいと思うのに止められない。
彼の舌に花芽を舐られて体の中に気持ちよさと疼きが蓄積していった。
「あっ……あ、稀一さっ……そんなに、したら……すぐ、イッちゃ、ああっ」
「まだダメだ」
(え……?)
詩音が小さく首を仰け反らせたのと同時に、稀一が口を離した。突然放り出された体を震わせながら彼を見ると楽しそうに笑っていた。
「さて、そろそろ体を洗おうか」
「え……?」
その嗜虐的な笑みに心臓がどくんと跳ねる。詩音の蜜口から愛液がとろりとこぼれた。
「……」
そのあとは本当に普通に洗われてしまった。だが、稀一によって敏感にさせられてしまった体はその普通の刺激にすら反応してしまう。
(稀一さん……。最後までしてくれるんじゃないの? どうして意地悪するの?)
恥ずかしいとぐずっていても、いざ始まると稀一の言葉どおり、もっとしてほしいと願ってしまう。
嫌よ嫌よも好きのうちとは、こういうことなのだろうなと自分でも思う。
体にじくじくとした疼きが溜まってどうしようもなくなった時に、稀一が詩音を抱き上げた。
「稀一さん……!」
「詩音」
甘やかに名を呼び返してもらえて胸が張り裂けそうなくらい嬉しい。詩音が胸元を押さえながら期待に満ちた目で彼を見ると、彼がくすっと笑う。
「体冷えるといけないから、お湯に浸かろうな」
「え?」
「俺が洗い終わるまでいい子で待ってろよ」
「き、稀一さん?」
戸惑いの視線を彼に向けても彼は優しげに笑うだけで、それ以上何も言ってくれない。
期待した自分とそれを裏切る稀一にどうしていいかわからず、詩音は彼に背を向けるようにバスタブの中で縮こまった。
(稀一さんの意地悪……!)
心の中で悪態をついていると、ほどなくしてシャワーの音が止まった。そしてバスタブの中に稀一がざぶんと入ってくる。それでも詩音は顔を上げなかった。
拗ねているという姿勢を崩さずにいると、稀一が詩音を抱き上げて膝に座らせる。向かい合うように座らせられて、嫌でも彼と目が合ってしまった。
慌てて彼の肩に顔を隠す。
(今更遅いんだから)
背中をさすってくれる稀一を無視していると、彼が詩音の頭を撫でてくれた。そして耳に唇を寄せる。
「拗ねてるのか? 可愛いやつ。じゃあ、そろそろ詩音のご期待に応えようかな。いっぱいイかせてやるよ」
「……っ!」
耳に息を吹きかけるように囁かれて、先ほどの疼きが復活してきて詩音は体を震わせた。宥めるようにぎゅっと抱き締める彼の腕に心臓がけたたましく鼓動を打ち鳴らしてうるさいくらいだ。
この心臓の音を稀一に聞かれたくなくて、もがいて彼の腕の中から逃げようとしたが、力強く抱き込まれて抵抗にもならなかった。
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