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仲が良かったからといって、それからも関係が続くとは限らない。
卜部芙美はまさにそんな一人だった。小学校時代、彼女が携帯電話を持たせて貰えていなかったというのも大きい。メールアドレスなどの連絡先も知らず、年賀状も途中で途絶えてそれっきりになってしまったのである。中学生の時を境に、彼女に送った年賀状が戻ってくるようになってしまったのだ。
だから引っ越したのに、その引っ越し先を教えて貰えなかったのをとても残念に思っていたのだが。
「その節は本当にごめんなさい!」
彼女は居酒屋で私の正面の席に座ると、パン!と手を叩いて言ったのだった。
「実は一度、みんなの住所データとか、パソコンに入れてたのがまとめてふっとんじゃって。あたし、みんなの住所とか電話番号とか全然覚えてなかったものだから、引っ越し先とか全然教えることできなくって。ごめん、本当にごめん!絶縁したかったわけじゃないんだけど!」
「何よー芙美ちゃんてば。昔は記憶力良い、真面目系生徒だったくせに。電話番号くらい覚えておいてよねー」
「ごめんってば。でも、今日の幹事の富沢クンの連絡先だけどうにか思い出してこっちから電話かけられたんだから、マシだと思わない?」
「富沢が引っ越してたり、家電切ってたらどうするつもりだったんだか」
「本当にごめんってばー!」
あはははは、と明るく笑う芙美。確かに、昔とはイメージがまるで違うな、と隣に座る男子に酒を注いでもらいながら思う私である。
小学校時代の卜部芙美という少女は、他の友達が言ったように“真面目系女子”だった。分厚い牛乳瓶のような眼鏡をかけて、窓際で本ばかり読んでいるようなタイプ。しかもおさげ髪であったものだから、なんというか昔の文学少女のような見た目であったと言っても過言ではないのだ。
そんな女の子が、まさかこんなイケイケ美女になってしまうとは。思わず、私はまじまじと芙美を観察してしまう。綺麗だった黒髪は、明るい茶髪に染まっている。まつエクもして眉毛もばっちり書いて、口紅は他の女子なら躊躇うくらい真っ赤な色で塗っているくらい。マスカラも青系でかなり派手な色合いだ。
さらには、シャツの胸元から谷間がばっちり覗いている。さっきから、男性陣がちらほらとその巨乳を気にしているのだが、彼女は気づいているのかいないのか。
――人って、変わるもんなんだなあ。変わったっていうより、化けたってかんじ?
眼鏡はコンタクトにすればいいだけなので、そこまで気にしていないが。十年合わないと人はこんなに変わるのか、と驚いたのは間違いない。
彼女は中学受験もして、有名私立に合格したという話も聞いている。昔は弁護士になりたい、なんて立派な夢も語っていたはずだ。てっきり今、東大でバリバリに法律勉強してますと言われた方が納得できただろうに――この様子。
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