なる、なる、なる。

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 左利きの人が右利きに矯正するのはままあることだ。だから彼女が昔左利きで、今は右利きに矯正したというのならわからないことではない。だが、逆はまずありえないはずだ。右利きの人間が左利きになる理由はないのだから。  それとも、自分が小学生の時に芙美と出会った時にはもう、彼女は右利きに矯正したあとの元左利きだったとか、そういうこともあるだろうか。 ――なんだろう、この、違和感。  そうだ、もう一つ。  芙美は、小学生四年生の時点で結構背が高かったはずだ。親の遺伝だとそう聞いている。でも、今目の前にいる女性は、身長160cmだった芙美より明らかに小さいような。 ――気のせい?私の記憶違い?それとも……。  違和感はどんどん強くなる。トイレで芙美と二人きりになった時、私は思い切って彼女に尋ねてみたのだった。 「あ、あのさあ芙美ちゃん。芙美ちゃんって、今身長何センチ?仕事してるなら、か、会社で健康診断とかさ。ない?」 「え?あー……そうね、あたし昔から小さかったもんね。身長152cmだけど、それが?」  やっぱり、と私は思う。小学生から背が伸びることはある。でも、逆に小さくなるなんて。若い女性が、そんなことはありうるのだろうか。 「ふ、芙美ちゃんさ。このあと献血とか一緒に行かない?お酒飲んだあとだと駄目かな。今、AB型足りないみたいだし、優しくしてくれるかもよ?そこに献血カー来てたから……」 「何言ってるの、霧ちゃーん。私、O型よ?AB型じゃないってば」 「……そう、だっけ……」 「ええ、そうよ」  さっきから、冷や汗が止まらない。さすがに変だ。記憶と違うことが多すぎる。だいたい、化粧をしているからって、こんなに顔立ちが変わるなんてことあるのだろうか。  利き手も違う。  血液型も違う。  それに加えて、彼女が今日合流できたのは、まるで同窓会をやるタイミングを知っていたように――たまたま幹事だった男子の番号を思い出したから、というものだ。それまで彼女は引っ越した上みんなのデータが吹っ飛んだという理由で、他の誰とも音信不通になっていたのである。  それは、つまり。 「あ、あなたは、だ……」  だれ。そう言いかけた時。彼女はぐい、と私の前に顔を近づけてきて。真っ赤なルージュを引いた唇を吊り上げて嗤ったのである。 「黙っていた方が、貴女のためよ?死にたくないでしょ?」  私は、声も出なかった。そのままトイレから出ていく“芙美ちゃん”の姿を、黙って見送るしかなかったのである。  果たして“芙美ちゃん”に化けていた女は一体誰だったのか。彼女になりすまして、一体何をしようとしていたのか。  確かなことが一つある。――あの同窓会に参加したメンバーの何人かが、その数年以外に死んでいるのだ。  まるで、何かに憑りつかれでもしたかのように。
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