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求む、化粧品代!
勇者パーティは、深刻な空気に包まれていた。
魔王の城に侵入し、城の構造偵察しなければ戦うこともままならない。そこで、勇者の一人が変装して、魔王の城にこっそり潜り込むという作戦を考えたのだが。
「大変残念なお知らせがあります」
勇者パーティのリーダーであるAが沈んだ声で告げた。
「変装用の衣装やらウィッグやらを買うことばっかりに集中していて、化粧品を買うのを忘れました。このままでは、踊り子に化けることができません」
「マジか」
「マジです」
そう。
魔王の城に入るには、踊り子に変装しなければいけない。
なんせ魔王は、ものすんごおおおおおい女好きだ。エロ親父だ。魔王を油断させるには女装が最適、そういう結論を出したところまではまあいいとしよう。
問題は。勇者パーティのメンバーが、全員男だということ。
女装したら似合いそうな美少年、とかも一人もいないということ。
なんとかフリーサイズの衣装を用意したはいいが、しかし。
「化粧なしで踊り子になるって、それ無理ゲーすぎね!?」
そう叫んだのは勇者B。もっさり髭のおっさん。
「化粧があっても、実は結構厳しかったと思うっす……」
そうぼやいたのは、お腹がでっぷり出たふとっちょのC。
「踊り子って、衣装結構スケスケなんだぜ。あれを男が着るのは結構やべーんだぜ」
頭が禿げ上がった、全身入れ墨だらけの元ヤクザ、D。
「おれは一番むり。おれのしっぽ、ごまかせない」
獣人で、全身にもっさり毛が生えたE。
でもって、リーダーのAは二メートル超えの長身、ムキムキマッチョである。この中では一番マシかもしれないのが己であるのがなんとも泣ける。いや、そうだとしても、化粧ナシで乗り込むのは自殺行為でしかないのだが。
「諦めろ、A。化粧があろうがなかろうがお前が行くしかない」
「自分に死ねと仰るんですか!?」
「消去法と言う言葉が世の中にはあってな」
「こんなムキムキな踊り子が世の中にいます?いないっしょ、ねえ!?」
結局背に腹は代えられない。Aは泣く泣く、踊り子の衣装を着るしかなくなったのだった。筋肉でぱっつんぱっつんだし、露出しているお腹はむっきむきに割れているがいいのか。たぶんヨクナイ。
――ああ、頼む誰かせめて化粧台をくれ!化けさせてくれ!
化粧の問題ではないような気もするがそれはそれ。Aは諦めて、ムキムキマッチョの踊り子として魔王城に乗り込んだのだった。
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