妻子が可愛い夫と夫がよくわからない妻

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 案内された食堂には、翡翠色のテーブルクロスがかけてあるダイニングテーブルが真ん中に置いてあり、その周りに赤銅色の椅子が並べられている。天井も高く、解放感に溢れている。  イグナーツがさっと椅子を引いた。オネルヴァは驚いて彼を見上げるが、どうやらそこに座れという合図のようだ。彼からこのようなエスコートをされると思っていなかっただけに、驚きと嬉しさが心の中で交じり合う。オネルヴァの席はエルシーの隣である。 「お父さま。エルシーも」  どうやらエルシーもイグナーツのエスコートを望んでいるらしい。微笑ましいその姿に、つい目を奪われてしまう。仲睦まじい父娘の関係に、オネルヴァの入る余地はあるのか。いや、この関係に自分が入ってしまっていいのだろうか。  イグナーツは、オネルヴァの右隣り、九十度の位置に座った。  オネルヴァがテーブルの上のナプキンを取り膝の上にかけると、エルシーが真似をする。  その仕草も可愛らしいのだが、オネルヴァは何か言いたそうに長く彼女を見つめていた。 「言いたいことがあるなら、きちんと言葉にしなさい」  イグナーツの言葉に、オネルヴァは身体を震わせる。 「あ、あの……」  なぜか身体に力が入ってしまう。何か言葉にすると、打たれるのではないかと身体が覚えているのだ。  イグナーツは怪訝そうに目を細くした。 「もしかして。エルシーのことか?」 「あ、はい……。ナプキンのかけ方が気になりましたので……」  彼女の言葉の最後は、消え入るようだった。  イグナーツは、眉間に皺を寄せる。 「君さえよければ、エルシーにそういったマナーを教えてもらえないだろうか?」  思いがけない提案に、オネルヴァははっと顔をあげる。 「俺たちだけでは、どうしても甘やかしてしまってな。家庭教師をつけてはいるのだが……」  言いにくそうにしているところから察するに、家庭教師との相性がいいとは言えないのだろう。 「君がこうやって食事のときに指導してくれたほうが、エルシーも言うことを聞きそうだ」  彼の口元が綻んでいるが、視線の先はエルシーを捕えている。  オネルヴァも左隣にいる彼女に顔を向けた。目が合う。茶色の大きな目が、オネルヴァをまっすぐに見上げている。その目尻が和らいだ。 「エルシーも、お母さまに教えてもらいたいです。先生は、怖いです」  しゅんとするエルシーの姿を目にすると、その言葉は偽りのない本心にちがいない。 「わたくしでよければ……」  ほぼ幽閉状態で過ごしてきたオネルヴァであるが、マナーは厳しくし躾けられている。だからこそ、エルシーの怖い気持ちがなんとなくわかった。  ぱっとエルシーの顔が輝いた。それを見たイグナーツも微笑んでいる。  ほわっと周囲の空気が温かくなったような気がした。  それが合図になったかのように、食事が運ばれてくる。  エルシーはたどたどしいながらも、ナイフとフォークを動かしている。 「エルシー。こちらの手は動かさずに、添えるだけにするといいですよ」  オネルヴァがそっと告げると、エルシーも言葉に素直に従う。その様子を、イグナーツが目を細めて見つめている。  なぜかオネルヴァは居たたまれない気持ちになった。 *~*~苺の月二日~*~* 『おかあさまは とてもやさしいです  ごほんをよんでくれます  いっしょにおさんぽをします  おかあさまは おとうさまがすきになったひとです  エルシーも おかあさまが だいすきです  よるになると すこしだけさびしくなります  だから おかあさまといっしょにねたいけれど  おとうさまと おかあさまが いっしょにねるから  じゃましてはだめだと ヘニーにいわれました  おとうさまと おかあさまが いっしょにねるなら  エルシーもまぜてほしいです』
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