妻子が可愛い夫と夫がよくわからない妻

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「エルシーは、寂しかったのですね?」  オネルヴァの瞳は慈愛に満ちている。エルシーは、ゆっくりと頷いた。 「寂しいと口にすることは、恥ずかしいことではないですよ? エルシーがよければ、わたくしと一緒に寝ますか?」 「本当ですか?」 「ええ」 「お父さまも一緒に?」 「それは……。旦那様に聞かなければわかりませんが」  オネルヴァと目が合った。彼女の目尻が、和らぐ。 「俺だけ、仲間外れ……」  つい、心の声が漏れ出た。  先ほどもオネルヴァの人参ケーキを食べられなかったため、心の中で悔しい思いをしたばかりだ。  妻と娘が仲良くする姿は、見ていて微笑ましい。だが、そこに夫であり父親である自分が混ざれないのは、仲間外れにされている気分にすらなってしまう。  だが、イグナーツはオネルヴァと共寝していない。 「エルシーとの約束だからな。人参を食べられるようになったら、エルシーの言うことをきくと。みんなで一緒に寝るのも、たまにはいいだろう」  エルシーが間にいれば、オネルヴァに触れなくて済む。そんな考えも、イグナーツにはあった。  それに、露骨にオネルヴァのことを避けるべきではないだろう。エルシーは母親として彼女を認めている。ここで冷めた夫婦仲を娘に見せるのは気が引けるし、イグナーツ自身も、彼女とはうまくやっていきたいと思い始めている。 「よかったですね、エルシー。でしたら、シチューの人参も食べてみましょう」  オネルヴァは、シチューに残されていた人参に気がついたようだ。エルシーは罰の悪そうな顔をしている。 「人参だけでなく、こちらのお野菜と一緒に食べるといいですよ」  むっとしたエルシーは、頑なに口を結んでいる。それは、食べるもんかという意思の表れでもある。  オネルヴァはエルシーのスプーンに手を伸ばすと、シチューをすくう。そこには、一つだけ、小さな人参の塊が見えた。 「エルシー」  オネルヴァが優しく微笑めば、エルシーも観念したのか口を開ける。オネルヴァはゆっくりとスプーンをエルシーの口元にまで運び、口の中へと入れた。  ぱくっと小さな口が閉じる。  その様子から、イグナーツも目が離せなかった。 「美味しいです。シチューの味がします」  エルシーの言葉に、オネルヴァも満面の笑みを浮かべた。 「お母さま、お母さまもお肉を食べましょう」 「え、えと……」  形勢逆転。エルシーが言う通り、オネルヴァの皿には、まだ半分ほどの肉の塊が残っている。 「エルシーがお母さまに食べさせてあげます」 「あ、あの……」 「ね、お母さま」 「エルシー」  イグナーツは、少しだけ声を荒げた。というのも、オネルヴァは明らかに困っているし、その様子がおかしいからだ。 「お父さま。エルシーは頑張って人参を食べました。お母さまはお肉を残しています。お母さまはお肉が嫌いなのでしょう?」 「え、えと……」  オネルヴァは食が細い。それは、イグナーツも気になっていたことだ。 「エルシー。無理強いはやめなさい。オネルヴァは嫌いで残しているわけではないよ。お腹がいっぱいなんだ」  オネルヴァの顔がかぁっと真っ赤に染め上がった。 「お母さまはお腹がいっぱいなんですか?」  エルシーがきょとんとして尋ねると、オネルヴァは恥ずかしそうに俯いて頷く。 「オネルヴァ、無理して食べる必要はないが。君は食が細すぎる。少しずつ食べる量を増やしなさい」 「エルシーも嫌いな人参を頑張って食べます。お母さまは、たくさんご飯食べるのを、頑張ってください」  エルシーの言葉で顔をあげたオネルヴァは「そうですね」と小さく呟いた。 「お母さまがたくさんご飯を食べられたら、エルシーがお母さまの言うことをきいてあげます」  あまりにも真剣な顔でそう口にしたため、オネルヴァとイグナーツは顔を見合わせ、笑みをこぼし合った。 *~*~苺の月三日~*~* 『きょうは おかあさまが にんじんのケーキをつくってくれました  エルシーは にんじんがきらいです  だけど おかあさまのにんじんのケーキは だいすきです  にんじんをたべたら おとうさまがエルシーのいうことをきいてくれます  だからエルシーはがんばってにんじんをたべました  エルシーはおかあさまとおとうさまと いっしょにねたいです  たのしみです』
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