プロローグ

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「アルヴィドお兄様……。このような時間に、一体どのようなご用件でしょうか」  相手が彼であったため、安堵のため息をついた。 「俺と一緒に来てもらおう」 「ですが……。わたくしは捨てられた身。ここから出ることは許されておりません」  いくら相手がアルヴィドであったとしても、それよりも上の人間がオネルヴァをここに閉じ込めているのだ。  アルヴィドはその言葉が聞こえていなかったのか、ゆっくりとこちらに近づいてくる。彼が歩くたびにカチャリカチャリと金属音が響く。腰に下げられている剣が音を立てていた。  こんな時間でこんな場所であるにもかかわらず、帯剣しているのが気になった。 「それを決めたのは前の国王だろう。その国王が亡くなった今、君の身は新しい国王が決める」 「新しい国王、ですか?」  震える身体を誤魔化すかのように、オネルヴァはぎゅっと掛布を胸元まで手繰り寄せた。 「もしかして……プリーニオお兄様が?」 「いや、俺の父、ラーデマケラス公爵」  オネルヴァの目が大きく見開かれる。 「国王および王太子の首はとった。妃たちは修道院に送る」 「わたくしも……?」  肩を震わせながらアルヴィドを見上げた。だが、頭の中は意外と冷静だった。  父と兄が死んだ――。  それを聞かされたのに、悲しみも怒りもなんの感情も沸いてこない。ただ、それを文字として受け止めるだけ。それでも少しだけ、信じられない気持ちもあった。 「君には利用価値がある。それに……君は捨てられた身だろう?」  色めく唇を舌でなぞる彼の姿に、背筋がゾクッとした。ここにいるアルヴィドはオネルヴァの知っているアルヴィドではない。  となれば、やはり国王を討ったというのも嘘ではないのだろう。 「俺の言葉に抵抗しなければ、何もしない。黙って俺についてこい」 「は、はい……。着替えは……」  返事をしただけなのに、その声は震えていた。それに、今は人の前に出るような相応しい格好をしていない。布の擦り切れた灰色のナイトドレスに身を包んでいる。 「そのままでいい。今は時間が惜しい」  オネルヴァは彼の言葉に従い、身体の向きをかえて寝台から下りようとしたが、昼間に打たれた肩がじくりと痛む。 「うっ……」  痛んだ肩を庇う。 「また、打たれたのか……」  アルヴィドの声は、どことなく優しかった。彼は上着を脱ぐと、オネルヴァの肩にそっとかける。 「外は冷える」  アルヴィドはそのまま彼女を抱き上げた。彼女の顔に触れている藍白(あいじろ)の髪を、片手で器用にさらりとはらう。 「君は……。相変わらず軽いな。食事はきちんととっていたのか?」
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