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上から降ってくる彼の声に、オネルヴァは頬を熱に包みながらコクリと頷いた。
アルヴィドに抱かれたまま部屋を出る。
カチャリカチャリと響く金属音が、オネルヴァの耳にはっきりと聞こえた。
「君には、隣国ゼセール王国に嫁いでもらう。まあ、いわゆる人質のようなものだな」
「わたくしでは、人質にならないのではありませんか?」
それは人質になりたくないからこぼれた言葉ではない。オネルヴァには人質としての価値がないと思っているためだ。
「安心しろ。君は他の誰よりもその価値がある」
アルヴィドはオネルヴァの言葉の意味をすぐに汲み取ったようだ。
「……ですが、わたくしは『無力』です」
「だからだよ。ゼセールではその力を欲している。君が向こうにいるかぎり、キシュアスとゼセールは良き関係を保てるだろう」
くっくっとアルヴィドは喉の奥で笑った。それはこの状況を楽しんでいるようにも、悲しんでいるようにも見えた。
階段をおりると、軍服を身に纏う男たちの姿がちらほらと視界に入った。
彼らの着ている軍服の胸元には、ラーデマケラス家の紋章がある。彼らは一斉にアルヴィドに向かって頭を下げた。
「こちらの制圧も完了しました」
「ご苦労。俺もお目当ての姫を見つけたからね。君たちも次の持ち場に移動しなさい」
軽やかな足取りでアルヴィドは外に出た。吹き付ける風から守るように、力強く彼女を抱きなおす。
「隣国に嫁ぐまで王宮で暮らしてもらう。理想の花嫁として、しっかりと教育を受けてもらわなければならないからな」
人の叫び声が、風にのって聞こえてくる。
「キシュアス王は、私腹のために巨額の国家資金を使い込んでいた。今、この国の国家財政は破綻しかけている。君は知らないだろうが、街は酷い状態だ。だから俺たちは、キシュアス国王の首をとり、国王をすり替えることにした」
まるで、この国の成り立ちを語るような、淡々とした口調である。
「今回の革命に手を貸してくれたのが、ゼセール王国だ。財政の立て直しのためにも、援助の約束を取りつけた」
オネルヴァはアルヴィドの顔を見上げた。彼の後ろには、いくつもの星が瞬いている。
「その代わり、ゼセールは君を欲してきた。キシュアスのために、ゼセールに嫁いでくれ」
苦しそうに微笑むアルヴィドの金色の髪は、夜風によってさわさわと揺れていた。
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