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 落ち着きを取り戻した曖裏は、温田の孫と森の中を散策しつつゆっくりと語り始めた。 「今でも一言一句ハッキリと覚えてるわ。あれはそう。私がクラスの女子にぶたれた日……」  教壇に立ち、みんなに語りかけた温田の言葉が蘇る。 『確かに冴梨は高校生の、いや人間の持つスペックを遥かに超えている。あえて呼ぶなら天才……いや、超人といったところか』  それは普通ではないと遠回しに言われたも同然。曖裏の心は更に沈み込んだ。 『俺の考えでは単に身体に衝撃を与えただけで超人になれるわけではないと思う。それならとうの昔から世界中超人で溢れ返っているだろうしな。冴梨の場合、小指、後頭部、顔面と立て続けに衝撃を与えたことにより、偶然にも身体能力が著しく向上する“スイッチ”が押されたのだろう。ひょっとしたら体温や血圧などその時のコンディションも影響しているのかもしれない』  確証の無い仮説に生徒達の疑念は晴れない。 『全ての人間にも超人になるスイッチが身体のどこかに隠されている可能性はある。しかしだ。全ての人間のDNAが違うようにスイッチの場所もまた人によって違うはず。だからと言って無闇に探すのはやめておけ。見つけられる確率はあまりにも低く打ち所が悪ければ最悪命を落とすかもしれない』 『じゃあスイッチを押せた冴梨さんはただ単に運が良かっただけですか?』 『運……そうだな。良くも悪くも世界一の強運であることは間違いない。しかし冴梨は超人の前に俺達クラスの仲間だ。決して妬んだり蔑んだりするな。むしろ誇りに思うべきだ。理由はどうあれ人類の長い歴史の中でこうも短期間に大きく成長できた人間などいなかったのだから』
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