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 気絶から目を覚ますと、曖裏は身体の異変に気づいた。  不思議なことに、あれだけ激しくぶつけたのに足や頭の痛みは無かった。それどころか悪かった体調がすこぶるよくなっており、おまけに眼鏡をかけなくても周りの風景がハッキリと見えていた。 「これ……私?」  鏡の中の美少女と目が合うと、急に頭が冴え渡り、全神経が研ぎ澄まされる感覚を覚えた。  試しに教科書をめくればスラスラと内容が頭に入っていく。気づいたら一冊二冊と丸々暗記してしまっていた。  その結果、テストは全科目満点。言語学、数学、物理学、生物学、天文学などありとあらゆる学問を一日でマスターするまでに至る。  更に運動面でもプロ顔負けのプレーを披露。写生、手芸、料理、歌唱、演奏などあらゆる分野で才を発揮。クラスの男子の注目の的になるのにそう時間はかからなかった。 「すごいよな“冴梨改”。別人に入れ替わってるとしてもすごいよアイツ」 「なんでも噂じゃ机に頭をぶつけたら変わったんだと」 「は? じゃあ頭をぶつけたショックで潜在能力が目覚めたのか?」 「確かに人の身体にはツボがあって、そこを押せば体調がよくなったりするって話は聞くけど」 「じゃあ冴梨は偶然に頭がよくなるツボを押したってのか?」 「それどころか容姿や運動神経までよくなっちゃうとかいいことずくめすぎるだろ」  ワイワイと盛り上がる輪から一人の男子が外れ、そそくさと当人の元へと近づく。 「なあ冴梨。もっと詳しく教えてくれよ。頭のどこをぶつけたんだ?」 「あ、抜け駆けはズルいぞ! 俺も知りたい!」 「えっと、初めは頭じゃなくて、まず足の小指をーー」  あわよくば自分も天才になろうと曖裏の言葉通りに実践する生徒が続出。だが、ただ身体を痛めただけで何も変化すること無く終わるのだった。
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