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「おい!」  翌日、頭に包帯を巻いた男子生徒が曖裏に詰め寄った。 「お前の言った通りやっても何も変わんねえじゃねえか!」 「むしろ血が出て大変だったぞ!」  怒鳴られ一瞬驚くも、深々と頭を下げ曖裏は謝罪した。 「ごめんなさい。私のせいで……。でも私、嘘はついてないわ」 「あ、いや、俺のやり方が違うのかもしんねーし」 「打ち所がちょっとズレてただけかも。はは」  潤んだ瞳に思わず顔を赤くし照れる男子達。 「じゃあさ、ここで実演してみてよ」  それを見ていた女生徒は、気にくわなかった。 「言葉で説明するよりその方が正確に伝わるっしょ」 「……そうね」  曖裏は教室を自室に見立て、あの日の出来事を忠実に再現した。  素足の小指を教卓の角にぶつけ、後方に転倒。机に後頭部を強打。そのまま顔面を冷たい床に打ち付ける。 「うっわ」 「思いっきりいったぞ……」  顔を引きつらせる男子達を他所に、曖裏は何事もなかったかのように起き上がる。 「大丈夫? 冴梨さん」 「大丈夫。平気ょ」  振り返った曖裏の頬に、平手が衝突。  ボキ、と鈍い音がしたかと思うと、女生徒は膝から崩れ落ちた。 「いッッ……だぁあああぁぁッッ!!」  その四本の指は、ぐにゃりと反り返っていた。 「ちょ、だいじょぶ?」 「なんでぶった方の指が折れてるわけ?」  改めて傷ひとつ、痣ひとつついていない曖裏の綺麗な顔を見て、女生徒達はゾッとした。 「に、人間じゃないわ! 冴梨は化け物よ!」 「そうよ! 魔女よ魔女!」 「何を騒いでるんだ!」  温田が仲裁に入り骨折した女生徒を病院に送った後、急遽ホームルームが開かれた。 「いいかみんな。冴梨のことは他言無用だ。決してSNSにも書き込むんじゃないぞ」 「いや先生。俺らに口止めしても無駄ですって」 「冴梨はもうとっくに学校中、いや他校の生徒だって知ってるくらい有名なんすから」 「ともかくこれ以上騒ぎを大きくしたくない。冴梨も、いくら急に何でもやれるようになったからと言って調子に乗って目立つもんじゃない」 「先生私そんなつもりじゃ」  曖裏の訴えは机を叩く音に遮られた。 「先生はおかしいと思わないんですか? ついこの間までなんにもできなかった子が別人みたいに変わっちゃって!」 「ハッキリ言って異常です! 気色悪いです!」  女生徒の言葉が、曖裏の胸にグサリと突き刺さる。
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