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「どう思います?」
「ふーん、なかなか面白いとは思うよ。いわば逆転の発想ってやつだな」
「まさにそれなんです。偶然に起こった失敗が、重要な発見に結び付くという事例は、沢山あるじゃないですか。抗生物質の発見とかもそうですし、たまたま不純物を混入させてしまったことによって、物質の今まで知られていなかった性質が発見されるなんてことも、ありますよね。そしてそれをヒントに、素材に意図的に不純物を混ぜることによって、より望ましい性質を引き出すことに成功したような例も沢山あります」
「まあ、確かに君の言う通りではあるな」
「そうなんです。では、とりあえず実験を開始してみてもいいですね?」
「うーん……」
「あれ?どうしたんですか?急に難しい顔されて」
「いやあ、うん、何と言うか、確かに君の言うことはもっともなんだがね。どうも、何だか嫌な感じがするんだ」
「嫌な感じ、と申しますと?」
「うん、理屈では君の言うことはよくわかるんだがね。これは私の勘に過ぎないんだが、どうも大きな問題につながる可能性があるような気がするんだよ」
「しかし、勘と言われましても……理屈ではわかると仰っておられる以上、それを止める理由はあるのでしょうか?」
「うーん……わかった。では試験的にやってみることにしようか」
「有難うございます!では、早速、一定数の不純物を混入してみたいと思います」
「どのくらいの割合を考えているの?」
「最初ですからごく微量で、大体1%程度を考えています」
「ふむ。そのくらいなら妥当かな。わかった。ではそれでゴーサインとしよう」
「有難うございます」
「ふーん、あれが例の不純物を付与されたものか」
「ええ。御覧のとおり、素晴らしい実績を見せています!とにかく知的能力が飛躍的に増大し、道具を創造し、それを的確に使用する能力が格段に進歩しました。また、環境認識や情報処理、情報伝達の能力も大幅に飛躍しました。そして急速に生活圏を拡大しています。実験は大成功です!」
「大成功……なのかな」
「何故でしょう?あんなに立派な進歩を遂げているじゃないですか?これのどこが失敗だと?」
「その彼らの生活圏の拡大の速度に不安を感じるんだ。尋常じゃないスピードじゃないか。もはや侵食と言ったほうがいいくらいだ。強力な道具を開発し、瞬く間にそれを共有し、ますます強力で手の付けられない集団になっていく。私には、彼らの誕生が、大きな災厄をもたらすような気がしてならない……」
「そんな、はは。考えすぎですよ」
「おい、楠田。ニュース見たか?」
「ああ、今テレビ見てる」
「お前、昔あそこにいたんだよな?」
「ああ、世話になった人もまだ沢山いる。電話してみたが、つながらん。くそ、それにしても、なんでこんなことになるんだよ!なあ、栗原よ。お前どう思う?」
「まあ、結局、人間も動物と変わんねえってことだろうな。なんたって、人間の遺伝子はチンパンジーと1.2%しか違わないんだからな」
[了]
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