月夜

3/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
と言って、縁側に2組置いた。 「せっかくだからいただきなさい」 と慶喜が、外に向かって声をかけると、 「はっ」 と返事が聞こえた。 「しばらくお待ちください」 と優之進は、慶喜に向かって深く頭を下げ、机の前に座り、絵を描き始めた。 慶喜は、爽やかな風を感じながら、優之進の姿を眺めていた。 時の経つのを忘れるくらい優之進を眺めていても飽きなかった。 (余の側にいてもらいたいものだ) と思っていると、 「出来上がりました」 と優之進は、慶喜の前に月の絵を置いた。 (これは) 紙を手に取った慶喜は、先程まで見ていた月がこの紙の中に移ってきたのではないかと思った。 「とても素晴らしい」 と慶喜が言うと、 「ありがとうございます」 と優之進は、深く頭を下げた。 「今手持ちが無いが、後で届けさせるのでいくらになるか?」 と慶喜が尋ねると、 「いただけませぬ」 と優之進は答えた。 「それでは余の気が済まぬ」 と言われたので、 「お任せいたします」 と優之進は笑顔で言った。 「それでは余はこれで失礼する」 と慶喜は言って、立ち上がり、 「お気をつけてお帰りください」 と優之進は、深く頭を下げた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加