蒼い月

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和服姿の男性のようだった。 直立不動で空を見上げていたその人は、鼓美の息を飲む音に気付き、ゆったりとした動きで鼓美を見下ろした。 「ヒッ!」 鼓美は引きつるような悲鳴を上げ、一歩後ずさった。 振り返った男の額には、黒髪の隙間から2本の角が生えていた。 明らかに人間ではないと分かる。 「ほう、人間とは珍しい」 「あ、わ、私なんて食べても美味しくないですよ!」 鼓美はさらに後退りながら言う。 屋根の上で腕を組んで立っている男はキョトンとした顔で、躓いて尻もちをつく鼓美を見下ろしていた。 「食べる? 誰が? 誰を?」 「あああなたが私を……!」 「……。はっはっは。それは面白い話だな」 柔らかい低音ボイスの角を生やした男は、愉快そうに笑った。 鼓美は涙目で屋根の上を見上げる。 「人間は不味いのか?」 「し、知りませんそんなこと!」 「お前が言ったのだろう。自分を食べても美味くないと。あぁ、だが目1《まひと》つ(おに)たちは美味かったと言っていたか。……怖がらせてしまったか。安心するといい。俺がお前を食うことはない」 安心しろと言われても、安心できる状況ではないのだが……。 鼓美は今になって、祖父母や親の言いつけを守らずに家を出たことを後悔した。 どうして家を出てしまったのだろう。今すぐ家に帰りたい。
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