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「ところで人間。お前はどうして外にいる? 誰にも止められなかったのか?」
「そ、それは……」
「ふむ……悪戯心か? 今夜は見事な天満つ月だ。興味を持つのは当然だろう」
口角を少し釣り上げた妖怪は、月に視線を移した。
蒼い月光に照らされる男の姿に、鼓美はつい見惚れてしまった。
「あ、あの、あなたは?」
「ん? 俺か? 俺は鬼斗だ」
男……鬼斗は鼓美に視線を戻し、穏やかな微笑を湛えて問いに答えた。
「妖怪、ですか?」
「鬼だ。……人間、お前の名は?」
「え?」
「名があるだろう。まさか人間という名でもあるまい?」
鼓美は自分の名前を教えることを躊躇った。
つい最近、妖怪に名前を教えて、その妖怪に食われてしまうという漫画を読んでしまったからだ。
けれど彼は、先ほど鼓美を食べないと言った。ならば教えても大丈夫だろうか。
「鼓美です。桐島鼓美……」
フルネームはマズかっただろうかと、言ってから不安が押し寄せた。
「鼓か。雅楽器の名だな」
「あ、えっと、楽器の鼓に、美しいと書いて、鼓美です」
「ほう。それは良い名だ」
まさか名前を褒められるとは思っていなかった鼓美は、呆気に取られてパチパチと瞬きした。
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