1人が本棚に入れています
本棚に追加
「教えてくれるんですか?」
鼓美はいつの間にか、恐怖心が好奇心に塗り替えられていた。
「隠すことでもあるまい。……昔の話だ。蒼い月が9か10度前に昇った頃か。いや、その頃は蒼い月は存在しなかった」
蒼い月が存在しなかった?
鼓美は理解できずに首を傾げた。
「……ずっと見上げていては疲れるだろう。上がってくるといい。月見をしながら聞かせてやろう」
「えっ」
「あぁ、人間の身体能力では、容易には上がれないのだったな。どれ、手を貸そう」
「え、えっ、きゃっ!」
鬼斗が言うが早いか、屋根を飛び下り、鼓美を軽々横抱きして再び屋根まで飛び上がった。
屋根の上に下ろされた鼓美は、その高さに鬼斗の着物の裾から手が離せなかった。
緩やかな三角屋根だったため、転がり落ちることはないだろう。
「今は美しい蒼い月は、昔は100年経とうが200年経とうが、黄色味を帯びた白いものだった」
もう昔話が始まったらしい。
鼓美は失礼と思いつつも、何も言われないのをいいことに、鬼斗の袖を掴んだまま話を聞くことにした。
最初のコメントを投稿しよう!