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「その頃は人間と妖は共存していた」
「え」
「驚いたか? この辺り一帯の人間たちと共に生きていた。住み分けなどされていなかった。だが、人間にしろ妖にしろ、善人も悪人もいるものだ。双方で他種族を忌み嫌う者がいた。そいつらが諍いを起こしてな」
鬼斗は、まるで当時の状況を見て来たかのように話した。
何事もなかったように軽く言っているが、住み分けされるほどの大きな争いが起こったのだろう。
鬼斗は悲しそうな目をして月を眺めている。
よく見ると整った顔立ちをしている。どのパーツも形がきれいで、正統派イケメンというのだろうか。10人中10人がかっこいいと言うだろう顔立ち。そこに憂いを帯びた瞳が儚さを醸し出し、目が離せない。
鼓美は胸が締め付けられるような思いで、鬼斗の横顔を見ていた。
「どうにか和解しようとしたが、どちらも譲らなかった。共存の道は容易くなかった。力の強い妖が土地を譲れ、力のない人間が去れ……。人間のほうが寿命が短いにもかかわらず、代替わりしてまで諍いが続いた。結局、人間が不憫に思えてきた妖が折れた。100年に一度、この日を貰い受けて諍いを終わらせた」
蒼い月の日は、妖怪たちの日だったのだ。
ならば、それ以外の日はどこで何をしているのだろうか。
「普段はどうしてるんですか?」
「向こうの山で暮らしている。人間には見つからないような場所だ」
「結界……とか?」
「分かりやすく言えばそんなものだ」
住む場所があるのに、どうして100年に一度は人間の世界にやってくるのか。
何か理由があるのだろうか。
鼓美の疑問が、無意識に口から零れる。
「どうしてこの日は、人間の住む場所に来るんですか?」
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