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「鬼斗様。まさか連れて帰るおつもりですか? 花嫁ですか? ついにご結婚なさるのですか? あぁそれでは急いで帰り、皆に報告せねば!」
「まて鬼十郎」
妄想が先を行く鬼は、名前を呼ばれた途端に口を閉じた。
そしてニッコリと笑みを浮かべ、鬼斗を見た。
「花嫁を見つけるために宴会を抜け出されたのですよね?」
威圧感。
彼は怒っている。
鼓美に対してではなく、どうやら鬼斗に対して怒っているようだ。
「……済まない。だが鼓美を巻き込むのはやめてくれ……」
鬼斗がケモ耳系の妖怪であったならば、しゅんと耳と尻尾を下げていたことだろう。
どうやら鬼斗は、鬼十郎という鬼には頭が上がらないようだ。
鬼十郎は屋根を飛び越え、鼓美と鬼斗がいる屋根までやって来た。下駄の音を鳴らしながら、2人の目の前まで近づいてきた。
鼓美に視線を合わせるように膝を曲げた。サラサラの黒髪が、月明りにほんのり蒼く染まっていた。
鬼十郎が近づいてきたことで、後ろで髪を1つに結んでいるのが分かった。
「鼓美様と言うのですね。鬼斗様がご迷惑をおかけしませんでしたか?」
なんと礼儀正しいのだろう。
鼓美はあまりの驚きにすぐに言葉が出なかった。
「鼓美様?」
「……え、あ、あ、いえ! 迷惑だなんてそんなこと!」
「左様でございましたか。花嫁などと申してしまい、大変失礼いたしました。どうか、主人を諫めるためだったとご理解いただけると幸いです」
まるで執事のようだった。実際、鬼斗と鬼十郎はそういう関係なのだろう。
鼓美が控えめに頷くと、鬼十郎はにこっと微笑んだ。甘い顔立ちの鬼十郎の微笑みに、鼓美は思わず頬が赤く染まった。
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