21人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「こんばんは、おばあちゃん。どちらまで行かれるのですか?」
「こんばんはお兄さん。これから息子を迎えに行くんだけれど、うっかり昼寝しちゃって遅くなっちゃったわ。急がないと」
「わかりました、息子さんのお迎えですね。もう暗くて危ないですし、僕と一緒に行きましょう?」
「まぁありがとう、助かるわ」
俺は、一昨年亡くなった、認知症だったばあちゃんを思い出していた。
「あ、おばあちゃん、虫が」
虫を払う振りをして洋服の首の裏を返したが、名前や連絡先などが書かれたタグは見当たらない。
おろおろと不安げにやりとりを見つめている、ニット帽の彼女に目配せした。
「(110番を)」
彼女はコクンと頷き、スマホを操作して電話を始めた。
通話し始めた彼女に、一緒に来るようジェスチャーをしながら、おばあさんと一緒にゆっくりと交番方面へ歩いた。
その道中、大きくて強面な警察官が、俺たちに駆け寄って来た。通報者の位置情報も活かされたのだろう。
「中川トメさんですか? よかったです。ご家族が探しておられますよ」
「あれあれ、申し訳ないわねえ、遅れちゃって」
「あの、見晴らし橋で彼女がおばあさんを見つけて、それで一緒に」
「そうでしたか。いや、ちょうどご家族からも通報がありましたので助かりました。ありがとうございました!」
警察官は俺達に一礼し、「あ、今夜は月、綺麗ですもんね」と、爽やかな笑顔を残し、おばあさんの背中を抱いて交番へと向かって行った。
最初のコメントを投稿しよう!