ブルームーン・ライド

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「こんばんは、おばあちゃん。どちらまで行かれるのですか?」 「こんばんはお兄さん。これから息子を迎えに行くんだけれど、うっかり昼寝しちゃって遅くなっちゃったわ。急がないと」 「わかりました、息子さんのお迎えですね。もう暗くて危ないですし、僕と一緒に行きましょう?」 「まぁありがとう、助かるわ」  俺は、一昨年亡くなった、認知症だったばあちゃんを思い出していた。 「あ、おばあちゃん、虫が」  虫を払う振りをして洋服の首の裏を返したが、名前や連絡先などが書かれたタグは見当たらない。  おろおろと不安げにやりとりを見つめている、ニット帽の彼女に目配せした。 「(110番を)」  彼女はコクンと頷き、スマホを操作して電話を始めた。  通話し始めた彼女に、一緒に来るようジェスチャーをしながら、おばあさんと一緒にゆっくりと交番方面へ歩いた。  その道中、大きくて強面な警察官が、俺たちに駆け寄って来た。通報者の位置情報も活かされたのだろう。 「中川トメさんですか? よかったです。ご家族が探しておられますよ」 「あれあれ、申し訳ないわねえ、遅れちゃって」 「あの、見晴らし橋で彼女がおばあさんを見つけて、それで一緒に」 「そうでしたか。いや、ちょうどご家族からも通報がありましたので助かりました。ありがとうございました!」  警察官は俺達に一礼し、「あ、今夜は月、綺麗ですもんね」と、爽やかな笑顔を残し、おばあさんの背中を抱いて交番へと向かって行った。
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