ブルームーン・ライド

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 見晴らし橋に戻ると、絵描きの男性が俺のバイクの後方へ場所を移動していた。  え、もしかして俺のバイク描いてる?  カメラの彼女も、絵描きの彼をじっと見つめてから、「あ、じゃぁあの今日は、ありがとうございました」と頭を下げ、解散の流れになりかけた。  その声に、絵描きの彼が手を止め、振り返った。 「あ! すいません、勝手に描かせてもらってました!」  絵描きの彼も頭を下げる。 「あ、いや、別に……」 「うわぁ! 素敵! お上手ですね!」  カメラの彼女が、スケッチブックに視線を落として目を丸くした。 「ありがとうございます」  称賛を素直に受け入れる彼を見て、俺も思わず絵に目がいく。鉛筆だけで描き上げられたその絵は、バイクと月が見事に美しく表されていて、自分のバイクとは思えない出来栄えだった。 「うわーすげぇ。こんなに良く描いてもらって」 「まだ途中ですけど、よかったら、差し上げます」  その絵のページをぴりぴりと破き出した彼。 「え? や、でも」  絵を貰うなんて人生で一度も経験がなかった。せっかく描いたのに、素直に受け取っていいのだろうか。  カシャッ。カシャッ。 「素敵な絵に、素敵な出会い!」  彼女は近くで撮ったり、後ろへ下がったりしゃがんだりして、カシャッ、カシャッやっている。  深夜、煌々と輝く満月が見守る中、不思議なやりとりを繰り広げる俺たち。何だかおかしくなった。このままこれっきりで別れてしまうのは、惜しい気がする。  俺は珍しく、この満月に力を借りることにした。 「あの、明日仕事とかですか? もしよかったら、せっかくなんでもうちょっと話しません?」  急にこんな提案どうかなと思ったが、 「いいっすね! そこのコンビニで飲み物とお菓子でも買って来ますよ! 俺明日、講義午後なんで」  と、絵描きの彼は満面の笑みを返してくれた。 「えっと……」  彼女はカメラを胸元で握ったまま、もじもじし始める。 「あ、いや、全然、無理にとは」  初対面の男二人とこんな深夜に語らおうとは、さすがに調子に乗り過ぎたかもしれないと、少し後悔した。  が、彼女はぶんぶん首を振った。 「いえ、大丈夫です! 良き案ですね!」 「そうですか? ほんとに無理しなくて……」 「大丈夫です! 明日も有給なので。コンビニ、行きましょう!」  彼女はにかっと笑ってみせた。本当か? 「あ、じゃあ俺とお姉さん二人で行きますー?」  彼女に距離を詰める絵描きの彼。草食系に見せかけてこの野郎。 「俺も行きます」  俺も負けじとついて行った。
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