21人が本棚に入れています
本棚に追加
コンビニから戻ると、月の見物客はほとんどいなくなっていた。
それでも煌々と光る満月は、空の高い位置で辺りの雲を群青色に照らし、ぽつんと立つ街灯は、今夜ばかりは月灯りに惨敗したといった様子で、首を斜めに下している。
俺たちは駐車場の縁石に腰を下ろし、買って来た飲み物や菓子を広げて宴を始めた。
「とりま、自己紹介からします?」
絵描きの彼が、いちごミルクをちゅーっと吸いながら始める。
「はい、そうしましょう!」
カメラの彼女は、スミノフの蓋をぎぎぎと回した。
「じゃあ、君からお願いします」
俺はペットボトルのコーヒーを一口飲んで、トップバッターを託した。
「永井亜阿斗、23歳。一浪美大生です」
「西山風衣瑠です。25歳、会社員です」
「倉橋縁仁。28歳、会社員」
おお~と、それぞれお互いへの軽い拍手を送った。
「風衣瑠ちゃんは、何の仕事してるの?」
早くも亜阿斗は、彼女を気安く下の名前で呼んだ。この野郎、その武器、俺にもくれ。
「えっと一応、損保会社で内勤してたんですけど、転職するんです。それで今、有給消化中で。縁仁さんは?」
どっきーん。縁仁さん……。
「お、俺は、システム運用やってます」
彼女がどんな顔をするかなと、ちらりと伺ったが、俺の回答を聞いてるのか聞いていないのか、「そうなんですね」と言いながら、スマホに視線を落として、指をせかせかと動かして何かしている。急いで誰かに連絡を返しているといった風だ。
「二人とも真面目な社会人なんだねー。俺社会人とかなれる気がしねー。あ、でもね、結構フォロワーさんはいるんだよ」
亜阿斗はSNSの自分のアカウント画面を見せてきた。見事な鉛筆アートの写真がずらり。フォロワーも1000人を超えていた。
「おお、すげぇ」
「すごい!」
すると彼女も、ふふんと鼻を掻いて言った。
「私も一応、フォロワーさん、いて下さるんですよ」
彼女は「じゃじゃーん」と、SNSのアカウント画面を見せてくれた。プロみたいな綺麗な風景の写真がずらり。フォロワーも300人くらいいる。
「おおー綺麗」と、まじまじと画面を見せてもらっていると、突然、ブイーンと振動が来て、画面上部に着信バーが出た。否応なく目に入ってしまった、男の名前。
「わ、ご、ごめんなさい」
彼女は慌てて立ち上がり、俺達から離れると、肩をすぼめて電話口の男に対応した。
最初のコメントを投稿しよう!