ブルームーン・ライド

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 グルルルボボボボ……カチャッ、キッ。  バイクから降りて、メットをカポンとバックミラーにかけると、橋の手すりまで歩いた。普段大して月に興味がある訳でもないのだが、今日の見事な月に吸い寄せられるように、自然に足が向かっていた。  うわぁ、まる! あっかる! すげぇ。  今夜はスーパーブルームーンということで、海を一望できるこの県道沿いの見晴らし橋には、深夜にも関わらずちらほらと見物客が集まり、あちこちで空を見上げている。  俺も斜めがけバッグからスマホを取り出し、ピロンと一枚。日記代わりくらいにはなっただろ。  カシャッ。カシャッ。カシャカシャッ。  ちらりと横を見ると、一眼レフカメラを構えて、立ったりしゃがんだりレンズを回したりしながら、月の撮影に勤しむ女性。カメラが趣味なのだろう。黒いニット帽から、パーマでほわほわの髪が肩まで伸びている。  何となく辺りを見回してみたが、誰かと一緒という様子はなかった。こんな時間に女性一人っていうのも何か心配だな。  その奥には、街灯の下に簡易椅子を置いて大きなスケッチブックを広げ、鉛筆で月を描いている男性もいる。色白で細っそりした体型、てろんとした服装。いかにも美術部出身といった感じだ。  自分には彼らのような芸術的な趣味はないが、この月がこういった人々を集めるんだろうなと、また月に視線を戻した。  確かに、不思議な力が宿っていそうな月だ。いつまでも目を奪われてしまう。写真を撮りまくりたいのも、スケッチを残したいのも分かる気がした。  15分くらい、一人まったりと月を堪能して駐車場へ戻り、メットを被ろうとしてふと、目の前の歩道に現れた歩行者に違和感を覚えた。  家着のような格好に、裸足のままのおばあさん。こんな時間に一人、緩やかな坂をとぼとぼと歩いて来たのだ。  えっ? あれって……  俺が危惧したと同時に、黒いニット帽の彼女がおばあさんに駆け寄った。  何やら会話をしているようだが、おばあさんは彼女の制止を振り切って更に先へ進もうとし、彼女は困り顔でおろおろしている。  俺は一瞬迷って、メットをシートに置き、駆け出した。
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