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 あれから一月が経ち、ムーコもすっかり新しい家に慣れていた。  私自身も最初こそはトイレの掃除や匂い、ご飯の催促やムーコの気分屋なところに手を焼いていたけれど、それも今では愛嬌であると感じられるようになっていた。  それから猫を飼い始めたことで、職場でも人間関係が大きく変わり始めていた。  私の服についていた猫毛をめざとく見つけたアルバイトの学生が、「もしかして、猫飼ってます?」と聞いてきたことで、会話が増えたのだ。それは周囲の人にも伝播していった。  他の従業員からも「猫飼ってるんだって?」と聞かれ、写真を見せれば「可愛い」と人が集まってくる。空っぽだったスマホの写真フォルダーが、今ではムーコの写真でいっぱいになっていた。  最初こそ、戸惑っていた私だったけれど、猫を飼っている人からの情報は有り難かったし、人間関係に希薄だったとはいっても、本当は寂しかったのかもしれないと実感していた。  再び訪れた満月の夜。  あの家があった場所は跡形もなくなり、まっさらな地面が照らし出されていた。  私はマフラーに顔を埋める。今だに残っている彼女の匂い。それから出勤まで、この上で寝ていたムーコの暖かさも加わっていた。  いつもは何も考えずに仕事に向かっていた。でも今は違う。少しだけ、バイト先の人と話したいという気持ちが生まれていた。それにムーコの餌を稼がなくちゃいけない。  私の中で大きく、何かが変わり始めているようだった。  早く帰ってムーコに餌をあげなければ。  待つ者が出来た家に向かって、私は歩き出した。
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