ご自由にお持ち帰りください

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 箱に入っている品物は、一週間に一度くらいのペースで切り替わっているようだった。  あるときは、季節外れの扇風機と広告の載った団扇。その翌週には明らかに高齢者向けの渋い色をした衣服が数枚あった。  一番驚いたのはエンディングノートだった。まさか、と思って中を確認したけれど、さすがに何も書かれてはいなかった。  なんだかホッとしながらも、私は終活かぁと自分の事を考える。パラパラと捲っているうちに、相続についてやら、伝えたいことなどの項目を流し見ながら私は改めて、自分が孤独であることに気付く。  一人暮らしのコンビニバイト。親族とは疎遠で、友達もいない。残す意味ないじゃんと、私はそれを箱に戻した。 この家の住人に会ったことはないけれど、この品物の持ち主については、好みや種類からしてある程度の予測はつく。  女性の老人であることは間違いないはずだった。同居する家族がいるかどうかまでは分からない。午後三時過ぎにこの前を通っても、家の中が静かだからだ。人が入っていく姿も見たことがないし、カーテンが閉め切られているせいで中にいるのかすら分からなかった。  もう何年もこの前を通い続けていても、ずっと謎のままだった。  私と同じでもしかしたら、一人暮らしなのかもしれない。別段、買い物以外は外に出る予定もないような、独居老人だったりして。そう考えれば、少しだけ親近感が湧く。  加えて日が経つごとに、私の狭い部屋の中には物が増えていた。それはあの家の住人の持ち物だったものが、ここに流れ着いているせいだ。  ほとんど自分の物がなかった私にとって、なんだかあの家の住人がこの家に引っ越して来るような気持ちにすらなった。  それと祖父母の家。数回しか行ったことがないけれど、確かこんな感じの匂いや雰囲気があったなと懐かしさすら漂っている。  それだけに、無機質な私の生活が少しずつ変化していくようにも思えた。
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