ご自由にお持ち帰りください

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 冬を迎えると、終業後の外はすっかり闇に閉ざされていて、寒さも一入だった。そんな中で、鋭く存在感を放つものに私はふと気付く。  コンビニから家路に向かいながら見上げると、そこには空に浮かぶ黄金色の円。今夜は満月らしい。街灯にも負けない光に向かって、私は白い息を吐き上げた。それから寒さに、赤いマフラーに顔を埋める。懐かしい香りが鼻孔から体内に抜けていく。このマフラーも箱に入っていたものだ。ちょっと糸が所々ほつれているけれど、まだ充分に使えるし暖かかった。  体は疲れているのに、何故か頭は冴えていた。気分も高揚していた。そろそろ週に一度の中身替えがあるからかもしれない。  この間はタオルとハンカチだった。新品とまでは言えないものの、それなりに綺麗で私も数枚持ち帰らせてもらった。  自分好みではないレースやすみれ色が多かったけれど、家で使うにはちょうど良さそうだった。  今回は何だろうと予想してみる。最近、大物はなかなか無かった。一番有り難かったのは、掃除機だった。ハンディタイプのもので、型は古そうだったけれど、ちゃんとしたメーカーのもので、ちょうど欲しいと思っていただけに、私は久々に興奮していた。  住宅地に入り、見慣れた道を進んでいく。すっかり常連となっている二階建ての木造家屋に近づいた。今日もちゃんとそこには箱がある。なんだか今日は白い紙が輝いてすら見えていた。  近づく度に気分が高まる。だけど、箱を覗き込んで私は唖然とした。中にはペットフードと毛布、深皿に、ペットシートや砂、トイレといったペット用品が一式入っていたからだ。  今までにそんなことは一度もなく、それに私はペットを飼っていない。今回はハズレかと思い、私はガッカリしながらその場から立ち去ろうとする。  背を向けて歩き出すと同時に、ガラッと玄関が開く音が背後からした。
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