ご自由にお持ち帰りください

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「待って」  驚いて私は振り返る。そこには、私が思い描いていた老女に近い人が立っていた。 「あんたでしょ? いつも持って帰ってるのは」  私はすぐには返事が出来ないまま、直立不動で彼女の顔を凝視していた。  怒られるのかと身構えていたけれど、そうではないらしく「あのね、お願いがあんのよぉ」と続けた。  月明かりに照らされた白い肌には、皺が多く目立ち、サンダルを突っかけて寝間着姿で出てくる様子は足取りが覚束ない。心なしか、右足を引きずるようにしている。  よろよろとこっちに向かってくる様子をただ私は、どうすることも出来ないまま硬直していた。  すぐ間近に迫った彼女からは、嗅ぎ慣れた匂いがしていた。まるでずっと前からの知り合いみたいで、不思議な気持ちにもなる。  そんな私の心境とは裏腹に、彼女は緊迫した様子で顔をくしゃりと歪めていた。 「私、もうすぐこの家を出るの。施設に入んなきゃなんなくってね。もぉ八十歳だから……体も上手く動けんくて。でね、あんたがいつも、この箱から持って行くのに気付いて……」 「……すみません」 「違う、違う。謝らなくていいから。そうじゃなくて、あんたになら任せてもいいと思えて」  それから彼女は、箱の方を振り返る。 「実はうちに猫がいるんだけど、引き取り手がなかなか見つからなくてねぇ。だけど、来月にはここをでなきゃなんなくて」  だからあんなにたくさんのペット用品が、箱に入っていたのか。納得は出来るけれど、自分が猫を引き取るというのは難しいように思えた。 「……どうして私に」  今までのものとは明らかに、重みが違う。なんせ生き物なのだから。簡単に貰おうとは思えなかった。 「あんただったら、大切にしてくれそうだから」  私は眉を寄せる。どうして、そう言えるのか分からない。
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