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「本当だったらこの子が死ぬまで見るのが、義理ってもんだけど、そうもいかなくてねぇ。この足じゃあ、生活もままならんくって。歩けないわけじゃないけれど、もう階段の上り下りがなかなか厳しくて」
彼女が右足をさする。
「だから、あんたに頼みたいのよぉ。どうか、あたしの頼みを聞いて貰えないかしら」
彼女の目は真剣そのもので、心なしか目の縁に涙がにじんでいた。
「でも……私、猫なんて飼ったこともないし……それにアパートだから」
ペット可だったかどうかもさだかじゃなかった。気にして入居したわけじゃないからだ。
「大丈夫。猫はトイレもきちんと覚える。それにまだ時間もあるから。あたしが分からないことを教えてあげる」
どうかお願いします。彼女が頭を下げる。椅子から下りて膝をつきそうになり、私は慌てて止めに入る。
「分かりましたから。やめてください。だけどペットが飼えるかどうか、大家さんに聞いてからでも良いですか?」
彼女はばっと顔を上げると、私の手を握ってありがとう、ありがとうと大きく揺すった。
いつの間にか私と彼女の近くにムーコがいた。まるで彼女をいじめるなとばかりに、ムーコがニャーと声を上げた。
大家さんに電話をし、事情を説明するとその猫だけならというのを条件にまさかの了承を得た。
私は早速、あの家を尋ねて事情を説明する。彼女は何度も私に礼を言って、それから箱に詰められた大量の猫用品を渡してきた。
「最後まで、一緒にいてもいいでしょ?」
彼女の願いを私はもちろん断る理由などなかった。
それから引き取るまでの三週間。私は彼女の家に何度かお邪魔させてもらっていた。一つは猫の飼い方についてのレクチャー。もう一つは、ムーコとの信頼関係を築く為だった。
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