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 ムーコは愛想はないけれど、賢い猫であることは確かだった。  彼女が呼べば渋々と言った顔をしながらも来るし、私の言うことを聞くようにと彼女が言えば、ニャーと嫌々ながらも答えていたからだ。  きっとムーコはこの状況を分かっているのだろう。動物が人間の言葉なんて分かるはずがない、と思っていただけに、ムーコを見ていると案外分かるのかもしれないと認識が変わっていた。  飼うにあたり、絶対にムーコの愚痴を本人の前で漏らさないようにしようと誓っていたぐらいなのだから。  三週間という期間は思いのほかあっという間だった。思いのほか充実していた日々に幕を下ろすため、私はムーコを引き取りに彼女の家に向かった。  家の中はもう、荷物の大半は持ち出されているようで何もない。  この家にあったものの大半は、今では私の家の一部にもなっていた。  ムーコはすでに大人しくゲージに収まっていて、「元気でね」と彼女が声をかけるのを黙って見つめていた。 「よろしくお願いします」  彼女は私に大きく頭を下げた。しおらしい姿と赤く腫らした目元に、私まで悲しみの波が襲っていた。 「写真……送りますから」  連絡先は交換している。それが私が出来る務めだと思えたからだ。 「そろそろ来るかしら」  この後、彼女はホームへと向かう。息子さんが来て、連れて行ってくれるようだった。 「お元気で」  そう言ってから、私は頭を下げる。それから行きよりも重たい右手を携えて、彼女に背を向ける。  ミーコが最後の挨拶とばかりに、ミャーと一声鳴いた。  背後から、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
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